誰にも言えなくて10



自分以外の男に抱かれた弟に、凌辱の限りを尽くした。





気を遣り、ぐったりとシーツに沈みこむ弟を、京一郎は見下す。






白く、壊れそうなほどに細すぎるその身体には、
激しい情交の跡が痛々しいほど残っている。


涙の跡の残る頬は、
久々に張り飛ばした為、すこし腫れて紅くなっていた。


「くそっ・・・・!」

訳の分からない苛立ちはつのるばかりだった。


これ以上、信哉の顔を見たくなくて、
部屋へ運ぼうと抱きあげたとき、その身体の軽さに驚いた。


一緒に摂ることこそないが、
食事は十分に与えているはずだ。

京一郎は、なぜか言いようのない不安に襲われた。












妻子ある男を誑(たぶら)かした女が大嫌いだった。
母は、その女のせいで、いつも苦しんでいた。


その女が産んだという、子供の存在が憎らしかった。

そしてその子供は、その女にそっくりな容姿で目の前に現れて、
弟として屋敷で暮らすことになった。



母はとうとう、信哉と同じ空気を吸いたくないと、
信哉が来て間もなく別宅で暮らすようになった。

なぜ、正妻がここを去り、信哉がここにいるのか。


なにもかもが許せなかった。






信哉がさっそく父に取り入ろうとしてると聞かされた時、
腹わたが煮えくり返る思いだった。


あの日、怒りのままに信哉を犯した。



どうせ慣れているんだろうと思い、
強引に己の猛りをねじ込んだ。

食い千切られそうな締め付けと、信哉の苦しそうな表情に、
この行為が初めてであると知った。



ぬるりとした生暖かい感触に、そこから出血していることに気づいたが、
行為をやめることができなかった。



今まで抱いた誰よりも、その肌は京一郎に馴染み、心地が悦かった。
まるで自分の方が、この熱い身体に呑まれてしまいそうだった。


淫乱。

そう罵りながら、
信哉を自分だけの性奴隷に貶めていくことで、支配欲が満たされた。


オレだけのものだった。
だから、あの出来事は絶対に許せなかった。


責めたかったのだ。


本郷なんかに抱かれたことを、咎めたかった。
この身体が誰のものなのか、思い知らせたかった。


京一郎だけのものだったのに、
それなのに他の男に穢された。


どんな言葉が信哉を傷つけるのか分かっていて、
言ってはいけないその言葉を、わざと選んだ。


だが、その言葉を口にした時、
一番戸惑ったのは京一郎自身だった。


想像以上に傷ついた信哉の表情は、
棘となって、京一郎の心に深く突き刺さった。















「おはようございます、京一郎様」

「・・・・・ああ・・・・」


朝食はしっかり摂る京一郎は、
いつものようにダイニングルームへと向かう。

父は出張、母親が出て行った今、
ここで食事を摂るのは京一郎だけだ。



広いダイニングテーブルに、
次々と料理が運ばれてくる。


しばらくたって、ちょっとした異変に気づく。
いつも起きてくるはずの信哉の姿がない。


一緒に摂らずとも、必ず朝は律義に挨拶に来ていた。




針のむしろのような、
周囲の視線に晒されながらも、
蚊の泣くような声で気まずげに
「おはようございます」と言って、頭を下げていた。




もちろん、それに応えるものはこの屋敷にはいない。
それでも信哉は欠かさずに、それを続けていた。

どんなに京一郎が激しく犯した翌日であっても。


(あんだけ喘いだんだ・・・。さすがに使用人たちに顔向けできないか・・・・。)


いつも声を我慢していたのに、夕べはあられもなく喘いでいた。



昨夜の仕打ちがたたって、
ベッドから起き上がれないに違いない。


仕方がないという体を装って、京一郎は信哉の部屋へ足を運んだ。


「・・・・・信哉・・・・?」

だが、その部屋に人の気配はない。



しかもシーツは乱れたままだ。




備え付けのバスルームは使用した形跡があったが、そこにも信哉はいない。



(学校に行った・・・のか・・・?だが・・・・)



自分を犯した本郷や、
共犯の久世のいる学校に、こんな早い時間に行くとも思えない。



何気に、使用人が運んできたと思われる、
信哉に用意された食事のセットが目に入った。



「あいつ・・・どこに行ったんだ・・・きちんと食ってんのか?」


何とはなしに蓋を開けたその時、
信じられない光景に、京一郎は衝撃を受ける。



「・・・どいういうことだ・・・これは・・・」



信哉に用意されていた食事は、
自分たちが口にしているものと同じものだ。


それは当たり前だ。

同じものを与えるように、シェフにも使用人にもいいつけてある。


だが、同じはずのその食事には、
無数の髪の毛や、虫の死骸がはいっていた。


思わず手で口を覆う。



これが毎日、信哉に与えられていた食事だというのか。

信哉の身体の軽さを思い出し、激しく動揺する。
急に怖くなり、蓋を持つ手が震えた。


これを、もし京一郎が指示したものだと、信哉が思っているとしたら。


京一郎は、胸が締め付けられるようだった。
















「何をしているんだお前たちは!ちゃんと信哉を探しているのか!?」


「京一郎様、どうか落ち着いて・・・・・!」


一週間たっても信哉を見つけられないことに業を煮やし、
部下たちに当たり散らす。


普段の京一郎からは考えられないほど取り乱していた。



ココに来たときと同じバッグを持って、
屋敷を出て行く信哉がセキュリティーカメラに映っていたのだ。



とても小さくて、儚くて。


もう二度と、自分のもとに戻ってはこないのではという不安に駆られる。







一つ引っかかるのが、本郷だ。
もしかしたら、また、
彼らが何か信哉と関わっているのかもしれない。


そう考えると、居てもたっても居られなかった。





その時だった。



「お〜お〜、荒れてるなぁ、京」
「お、親父・・・・!?」



「ははっ・・なんというか、お前は相変わらずアレだな。」



フランクに笑いながら、帰国した父が嘲笑う。


二人の時は「親父」だが、
人前では自然に「お父様」と呼ぶのが、父には可笑しいらしい。



「なんで・・・・帰ってくるのはまだ先だろう・・・?」

「なんだ、帰ってきちゃ悪いか?」

妖しげな瞳が、京一郎を射抜き、
その視線に京一郎は落ち着かない気持ちになる。


・・・なぜか父には勝てない。


特に、こんな視線は、息子の自分ですら、居心地の悪さを覚える。





人は、父より、京一郎の方を喰えない、と表現するが、
それは父の持つ、フランクな魅力に埋もれているだけで、実際は、
裏では何を考えてるのが分からいのは父親の方だ。


「ひゃあっ・・・・!てめ・・・親父!!!」

「相変わらず京は好いケツしてんなぁ。信哉のケツもなかなかだぞ」



突然京一郎の尻を撫でまわし、
ご機嫌に浸っている父はほんとに読めない。



あの使用人が、信哉が父を誑かしていたと言っていたが、
本当は父が信哉にちょっかいかけたのでは?と思ってしまう。


「お前のために、わざわざ帰国した親父様にひれ伏す気はないのか?京一郎くん」


・・・だから嫌なんだ。
いい加減にに見えて、全てを分かっているこの余裕が。


隙だらけに見せて、本当は全然隙がない。
父親は、尊敬する半面、京一郎の一番苦手なタイプだったりする。



こういう持ち合わせた才能は、なかなか真似できないし、
超えられるものではない。



「実はね、新しい取引を持って帰ってきたんだよ。
でね、その取引先は、本郷でいこうと思ってる」




「・・・っ!!」

その言葉にドキリとする。



「動揺を隠せないようじゃまだまだだな、京一郎。」

「・・・」

「お前なぁ・・・・本郷は切っちゃいかんよ」

どっかりと、ソファに腰を下ろし、京一郎に受け継がれたその長い脚を組めば、
息子の京一郎から見ても、嫌になるほど絵になる。




「京一郎、お前、もちっと相手のことを調べてから行動せんとなぁ」

「・・・調べたうえで、本郷を切ったんだが?」

やりたい放題の、自己中心的で、
粗悪品でも、金になれば騙してでもビジネスにつなげる。
それが許せなくて切った。


それのどこが悪いのか。



父に自分の横にくるように促され、
言われるままに腰を下ろす。



「ちょっとな、本郷は厄介なんだな〜〜。あいつら、扱いが難しいんだ。」

「・・・」


「・・・・利益のためなら手段を選ばんのだよ・・・・、誰を犠牲にしても・・・・・」

「・・・!!」

京一郎は動揺した。




「まぁ、質の改善は必要としてもな、まぁ・・・あれだ。
やつらはプライドだけは何よりも高いから。
適当〜に仕事与えとかないと、あとが厄介なんだ。」



最初に組んだのが間違いだったと、
父のぼやきを聞いてやっと理解する。



自分のやったことは間違いだったと、京一郎はやっと悟る。





「ねちっこい本郷を潰すんなら、気の遠〜〜くなるような長期戦が必要だ。
それがめんどくさけりゃ、それなりに仕事与えておけ。
もちろん、適当ってわけにはいかんがな」



笑いながら、ゆっくりと立ち上がった。


「まぁ・・・あれだ。逆にうまく利用してやればいい。
なんだかんだで人気のある企業だ。手ごまにはいいんじゃないか?
手を切るなら、あいつらの所業が世間にバレて、自滅する寸前でも
いいんじゃないか?」



他の企業の社長が聞いたら卒倒しそうな恐ろしいことを、
事もなげに笑いながら言ってのける様子に、
京一郎は背筋に冷たいものを感じた。


いい加減なようで、ぬかりない、そして恐ろしい男。それが父親。

必要な書類を渡して歩き出す。
その後ろ姿を、ただ見送ることしかできなかった。

「くそ・・・・!」

自分の失敗を、父に尻ぬぐいされるのは悔しかった。





その書類にざっと目を通すと、すぐに久世に連絡をとった。


そしてそれを携え、自ら指定された久世の家へと出向いた。








「へぇ〜、京一郎くん自ら来てくれたんだぁ」

何かに感心したように、久世こそ自ら出迎える。


「無駄話はいい。さっさと取引の話に入りたい」

「ま、お茶くらい飲みなよ」

京一郎が、冷たく言い放っても、
久世は気に留める様子もなく、応接間へと通される。





不本意ながらも、父の持ってきた取引を久世に持ちかけ、
品質低下や不具合が起きた時は、
必ず措置を取らせることを約束させた。


巨額な金の流れのあるその取引に、久世も申し分ないというように合意した。


「ありがとうね。それじゃ、ほら、これはあげるよ」

ふいに渡されたのは、
いつか久世が手にしていた、ビデオカメラだった。



間延びした独特な話口調が、どうしても信用に欠ける。
こんな男が取引に応じるとは思えなかった。




「じゃ、そういうことで」
「まて!」

「・・・・まだ何か?」

返すもんは返したでしょ、そう言って久世は怪訝な目を向ける。



「お前らのことだ。データのコピーとか・・・・そういうのがあるんじゃないのか?」

そいういう不安を抱かずにいられない。


だが、盛大なため息の後、
久世から帰ってきたのは以外な言葉だった。






「あのさぁ〜、孝雄んとこの親父さんと一緒にしないでくれる?」

「・・・・・?」


ふふっと微笑みながら、久世は京一郎に近づく。


「僕が言うのもなんだけど・・・・、
やり方が常に汚いでしょ、ウチ。あれ、叔父さんの専売特許でさぁ、
叔父のことは反吐がでるくらい嫌いなんだよねぇ」



自分たちも卑怯な真似をしたくせに、
と言いかけたが、かろうじて押しとどめた。


「まぁ。僕も、今回は叔父のこと言えないけどね〜〜。でもね・・・・」

間延びしたふざけた物言いが、一瞬締まる。


「僕はね、孝雄のためなら何でもするよ。」



久世の瞳に、一瞬光がよぎる。




「叔父がどうなろうと知ったことではないけどさ、
でも、そこを継ぐのは孝雄だから。
孝雄が継ぐ頃、会社がぼろぼろなんて、そんなことはさせない。
僕には孝雄が大事なんだよ。」



そのためだけに、信哉を使って――。。

たとえようのない怒りがこみ上げる。





「ふふふ・・・そんな顔しないでよ、京一郎くん。
僕にとって、孝雄はかわいい弟みたいなもんなんだ。
何物にも代えられない。
僕は、孝雄のためならなんでもする・・・・・特別だからね。」




そう言って不敵に・・・かつ妖艶に微笑んで見せる。





「君もそうなんじゃないの?」

「・・・・何?」


「弟・・・大事だから、こうしてさ、部下じゃなくて、
自分自らここに来たんじゃないの?」

「・・・何が言いたい・・・?」



くすくすと笑う様が気に入らない。


だが不思議と、
データのコピーが無いということに関しては、ウソではないと思えた。




「一つ質問だが・・・・信哉は・・・ここに・・・・来てないか?」

「は?なんで?あんなことの後で、僕らんとこくるわけないでしょ?
第一、彼はここ知らないし。
あ・・・そういや、ここんとこガッコにも来てないみたいだね。
もしかして・・・いなくなったの?」



「そ、そうか・・・。や、来てないならいい。
品質点検についてはまた追って連絡する」


「ふうん・・・・?」


久世は喰えない。
余計なことを言わなきゃよかったと後悔しながら、その場を足早に退散する。








君もそうなんじゃないの?


久世の言葉が頭によぎる。



(君もそう、って・・・一体、オレがなんだってんだ・・・・!)


訳の分からない苛立ちはどんどん募る。



「くそ・・・信哉めっ・・・・・!いてもいなくてもイライラさせやがって・・・・!」




まるで信哉に振り回されているようで
とても腹立たしい。



「信哉・・・・!」





あんな細い身体でどこに行ったのか。



「あの・・・バカ・・・・!」

そう呟く京一郎の顔はどこか切なげだ。






部屋に戻り、覚悟を決めて
久世のビデオカメラをONにする。



久世のカメラワークは絶妙で、
信哉と本郷の情交が鮮明に映し出される。


薬を盛られ、動けなくされ、
強姦される様子に目を逸らしたくなった。


『うあ・・・あぁ・・・兄さん・・・助けてっ・・・あぁっ・・・』


その叫びに京一郎はハッとした。



あれほどの酷い仕打ちをしていたのに、
信哉が真っ先に助けを求めたのは京一郎だった。


どれほど怖かったことだろう。
どういう気持ちで兄の名前を呼んだのか。


「信哉・・・・・」


京一郎の手に力がこもる。
鈍い音を立てて、ビデオカメラは壊れてしまった。

『兄さん・・・助けて・・・・!』





あの時の胸の痛みがぶり返す。

どうしようもない不安感。

信哉が・・・傍にいない。




「信哉・・・・・・・」

いつの間に、これほどの存在になっていたのだろう。



「信哉っ・・・・・!」

京一郎は、きつく目を閉じた。


11へ
あああ、なんか、今回は京一郎目線ですが、
ぜんぜんHシーンが書けなくてつまんなかったです。

ま、たまにはこんな骨休めも・・・ね!
相変わらずご都合主義で文章が拙いのは、私の頭が悪いからで、しょうがないのです(-_-;)
しかし、いつまで続くのかこれ・・・・・。


2011/03/13

2015/05 修正