誰にも言えなくて14

「・・・ん」


信哉が気を失っていたのは、
ほんの20分ほどだった。



「・・・にいさん・・・・」


舌足らずな口調で呼ばれる。


さっきは「お兄ちゃん」と呼んでくれていたが、
どうやらあれは、せっぱ詰まった時にしか聞けないらしい。





「動けるか?信哉・・・・」


「・・・うん・・・たぶん・・・」


もぞもぞと状態を起こし、ベッドの淵に腰かけて、
立ち上がろうとした。




だが。


「・・・・」


「・・・・」


「・・・・・・・・あの・・・」


どうやら立てないらしい。


かぁっと恥ずかしそうに頬を染める信哉を微笑ましく思う。



京一郎は余裕で立ち上がり、
信哉を軽く横抱きにしてしまった。


「わ・・・!」


まだまだ軽いが、
以前、胸が痛むほどの軽さに比べると、
あの青年たちが食事に関してはちゃんとしてくれていたようで
京一郎は心底ほっとする。







お姫様だっこの状態でバスルームへ運んでいく。


「綺麗にしないとな・・・」



バスタブの縁を掴ませ、
膝立ちの状態で尻を突き出すような恰好を取らせた。



「や・・・兄さん・・・これちょと恥ずかしい・・・」

「そうか?俺にとっては絶景だがな」


そう言ってからかってみせると
また少しだけ頬を含まらせて抗議の目を向けている。



いい顔するようになったと感心しているうちに、
出していたシャワーも、適温になった。


信哉の尻にシャワーを当てる。


信哉は今から何をされるのか、十分に分かっているようで、
恥ずかしそうにバスタブの縁に掛けた手の間に顔を埋めている。




信哉の蕾に指をさしこみ、
京一郎が放ったものを掻き出していく。


「んっ・・・・あ・・・・」


指が襞をこさぐたびに、信哉の口が甘い声が漏れる。



こんな風に中を洗浄してやるのは二度目だ。



あの時は―――――思い出したくもないが、
本郷に穢された身体を綺麗にしてやった。


もうすでに、他の男の名残など一切残ってはない。


再び己が信哉を抱いたことで、
決して崇高たる存在でもないくせに、
まるで穢れたものを浄化してやった気になる。



「んっ・・・・ああぁっ!!」


「おっとすまん・・・」


鉤状に曲げた指が、ちょうど前立腺を擦ったらしい。




「・・・んっ・・・・あ・・・」


信哉の腰が甘く揺れ始める。



さっきまで抱き合ったのだ。


この子の身体の負担も考えると、
今日はもう控えなければいけないと、
そう思うのに。




「あ・・・んっ・・・兄さん・・・もう・・・指抜いて・・・」

そんな可愛い声で言うものだから。



「んっ・・・ねっ・・・変になっちゃう・・・あっ・・・」


可愛く腰なんて揺らすものだから。


「あっ・・・!に・・・兄さん・・・!?」




また熱を帯びた猛りを当てがう。





「や・・・待って・・・待って・・・ああぁっ!!」



さっき散々愛した身体は、
京一郎の、ぱんと張った先端部分を簡単に飲み込んでしまう。




「も・・・ぃれない、でぇ・・・」

「・・・でももう、挿っちゃった・・・・」



「あんっ・・だめっ・・・・抜い・・ああっ!!」

懇願も虚しく、信哉の可愛い抵抗を合図に、
京一郎はその熱を一気に奥へと突き入れた。




「ああっ・・・あ・・・・あん・・・」




可愛い性器からは少量の薄い体液がつぅっと流れ、
ものすごく強い圧力で京一郎自身が締め付けられた。



「また挿れただけでイッてこの子は・・・」

「に・・・さん・・・も、抜いてぇ・・・・」

「あぁ・・・いい・・・信哉、気持ちいい・・・・」



再び注挿を繰り返す。



ゆっくり、ゆっくりと、
ペニスを出しては挿れていく。



「あっ・・・あっ・・・・・あん・・・」





さっきまでのような堪えようのない、拷問みたいは激しい快楽ではなく、
ちょうどいい、水面に漂うような心地よい快楽。





「あ・・・ん・・・・ああ・・・にぃさ・・・・」



自然に、京一郎に合わせて、信哉の腰もリズムのっていく。



「いいね、信哉の可愛い声・・・バスルームに響いてる・・・」

「はあっ・・・・ひぅ・・・」



「ん・・・上手・・・上手だよ・・・信哉・・・」




褒められて、信哉もまた、快楽の波にだんだん意識が溶け込んでいく。





「ね、信哉・・・信哉は、これを抜いてほしいの・・・・・?なら、抜こうか・・・?」

「あっ・・・だ、・・・だめっ・・・・」



さっきとは違う答えに、京一郎もおかしくなった。



膝立ちになっている信哉の腿はプルプルと震え、
己の身体を必至に支えている。

それが辛そうで、京一郎はいったん己を引き抜くと、
向かい合わせになった。


胡坐をかき、その上に信哉を乗せ、
対面座位で信哉を貫いた。



「あっ・・・あぁん・・・」


信哉は顎をのけ反らせ、
京一郎から与えれる快感をじっくりと堪能しているように見える。



「信哉、自分でも動いてごらん・・・?」

「んっ・・・・」



言われるままに、京一郎の肩に両手でつかまり、自ら動こうとする。

拙い動きで、腰を浮かせては下ろし、
芸のない一本調子の動きに京一郎ももどかしい。


でも、そのもどかしさが可愛くて愛しくて気持ちいい。


「や・・・ん・・・・じょおずに・・・できないっ・・・」


しばらく拙い動きを繰り返していたが、
くすん、と少しだけ泣きそうになって、舌足らずな口調で訴える。





「だったら、できるように練習しなきゃ・・・」

「・・・だって・・・できないんだ・・・もん・・・」



下唇をきゅ・・・と噛んで、
上目に京一郎を見つめる様はとても可愛らしい。

煽情的なのに、それ以上に可愛らしくてしかたがない。


子共っぽさと色っぽさ、両方を併せ持つ信哉の魅力は、
京一郎をどんどん虜にしていく。



信哉は動きを止め、少しだけ駄々をこねるように腰をもじもじさせた。


「どうした?」

「う〜・・・」


紅く潤んだ瞳で兄を可愛く睨んでくる。


もっと気持ちよくなりたいのに、
自分の下手な動きでは気持ちよくなれない。

でも、京一郎も動いてくれない。


そんなもどかしさでいっぱいのようだ。



「ぼく・・・できないっ・・・」

そういって、京一郎の胸に顔を埋める。


動かない京一郎を責めるかのように、
さらに腰をもじもじさせて催促する。





甘えてくる信哉が可愛くてたまらない。






「そっか・・・できないか・・・」

自分の胸に預けられた信哉の背中をぽんぽんとあやす。



「じゃ、しょうがいないな・・・兄ちゃんが動くか・・・・」

「あっ・・・ん・・・あん・・・」





京一郎が律動を開始すれば、信哉がまた可愛い声で啼き始める。




「気持ちいい?」

「ん・・・もち・・・いい・・」

「何?ちゃんと言って・・・。聞こえないよ」

「ふ・・・ん、あん!」

「ほーら、信哉・・・気持ちいい?」

「ん・・・気持ちいいっ・・・・」


余程感じているのか、
必死に言葉を紡いで、甘い吐息を漏らす。


「そっか・・・じゃあ、兄ちゃん頑張らないとな・・・・」

「あっ・・・ああっ・・・いいっよぉ・・・」

「うん、信哉、俺も気持ちいいよ・・・信哉の中・・・・」


「あっ、あん・・・お兄ちゃんっ・・・」

その言葉に煽られ、突き上げをさらに激しくする。


「あっ、あっ、・・・ゃん・・・お兄ちゃんっ・・・」

信哉はしがみつき、背中にガリガリとと爪を立てる。


最初の抵抗はどこへ行ったのか。


あっさり快楽に負け、その快楽をひたすら貪っている。




「お兄ちゃん」と甘えながらしがみ付いてくるその身体を、
京一郎は満足するまで愛し続けた。















*****


「・・・まぁ、大丈夫といえば、大丈夫だが、そうじゃないと言えばそうじゃないかもな」



どのくらい眠っていたのか、
誰かと話をしているらしき京一郎の声に、信哉は目を覚ました。

時計を見れば、あと少しでお昼。



バスルームを出てからすぐ、信哉は眠ってしまったようだ。



兄が迎えに来てからの一連のことを思い出すと、信哉は恥ずかしくなり、
真っ赤になった顔を枕に埋める。


やったことといえば、セックスと寝ることだけだ。




兄から、「愛したい」と告白され、キスされた。

これまでの、妾の子を貶めるようなレイプではなく、
まるで、恋人同士が愛を確かめ合うかのような
とても気持ちのいいセックスをした。




・・・多少、強引な部分もあったけど・・・。


(夢・・・じゃないよね・・・?)


頭がぽわんとして、なんだかずっと、夢と現実の区別が曖昧だ。





兄の声のする方へ向かおうと、
ベッドからそろりと降りれば、がくりと脚がくずれ、ぺたりとへたりこんでしまう。

やはり、いまだに力は入らないらしい。




「信哉?」


信哉が起きた様子に気づいた京一郎が、信哉の様子を見に来てくれた。



シルク素材のパジャマの下だけを身に付け、手には携帯電話を握っている。

ペタリと座りこんでいる信哉の腕ををとり、
ひょいとベッドに座らせると、
携帯電話の相手がキャンキャンわめいているのが聞こえた。




「あー・・・もう、わかった、ちょっと代わるから待て」


京一郎から受け取った携帯は、信哉がタカから預かったものだった。




「もしもし・・・?」


『信ちゃん、大丈夫!?あいつに酷いことされてない!?』



「カズお兄ちゃん・・・!」

カズの声に、信哉の顔もぱぁっと綻ぶ。


その様子を見ている京一郎はちょっと面白くなさそうだ。



「うん、大丈夫だよ・・・うん、うん、そんなことないよ」

くすくすと笑う信哉を見て、さらに不機嫌になる。



「わっ・・・!」



『信ちゃん、どうしたの?』
「ん、なんでもない・・・・」


楽しそうな信哉にヤキモチを妬く京一郎が、
剥き出しの信哉の太ももに手を這わせてきて初めて気づく。


(わ・・・僕、下を履いてない・・・・!)






よく見れば、信哉が着ていたのはパジャマの上の方だけで、
いわゆる「彼シャツ」状態だ。




キッと睨むけど、京一郎はニヤニヤと笑うばかりだ。


京一郎の手は、官能を呼び起こすように、
わざといやらしく信哉の腿を這いまわる。





くすぐったいやら気持ちいいやら。


なんとかそれを堪え、タカとも少し話をしてから電話切った。


「もうっ!兄さん・・・・・・・!」

さっきよりも幾分か怒りを込めて兄を睨むが、
京一郎はなんら堪えていないようだ。



「信哉の肌、ほんとスベスベ」

さんざん撫で回したあと、ちゅっと吸い上げ、跡をつけていく。





「兄さんっ・・・!!もう、ダメなんだからねっ」

「・・・やめとけ。お前が怒っても可愛いだけだ。」

一著前に怒る信哉を見ても京一郎は笑うばかりで、
信哉の鼻をきゅ、とつまんでくる。



その手を払いのけ、
頬を膨らませて威嚇するが、
すればするほど京一郎はおかしそうに笑うばかりだ。



そんなやり取りをしている最中、
信哉のお腹が大きく音を立てた。



「あっ・・・・!」

恥ずかしさに頬が赤くなる。


「あ・・・そういやお前、ずっと、食べてなかったもんな」

「・・・・・・うん」

「・・・の、わりに、Hはしまくったしな」



「・・・・・・・・・・・・・・・う、うん」



「そりゃあ、腹もへるわな」


「・・・・・・・・・・・。」


恥ずかしくて、プンとそっぽを向いた。


「よし、今からお兄様が料理を作ってやろう・・・・と、
言いたいが、あいにく俺は、料理はできん!」

威張ることではないのになぜか自慢げな兄に吹き出しそうになる。




「信哉は・・・作れるか?」

「うん・・・、でも、兄さんの口には合わないよ、きっと」


いわゆる、庶民の料理しか作れない。
普通に煮物とか、味噌汁とか。

でも、それ以前に、今は足腰に力が入らない。


「食ってみなきゃわからんだろう。お前が元気になったら作ってくれな」

そう言って、信哉の頭をあやすようポンポン叩く。



「それじゃあ・・・ピザでもとるか?」
「え!?」

ピ・・・ぴ・・・っ

ピザ!?


「実はずっと前から気になってたんだ、デリバリーのピザ。
俺は料亭か、シェフが作ったものしか食べたことがないからなぁ・・・」


投函されてたらしいピザの広告を広げれば、信哉の目が瞬時に輝く。


「た、食べたい・・・!」


それはまるで夢のような提案だった。



裕福過ぎて食べる機会のなかった京一郎とは逆に、
お金がないから食べたことがなかったのだ。


アパートのポストに投函されるピザの広告。



とても美味しそうで、ずっと食べてみたいと思っていたが、
自分たちの貧しい生活を考えると、とてもじゃないが
食べたいなんて言いだせなかったのだ。


広告を眺めては夢見て、諦めていたのを思い出す。



大きくなって働くようになったら、絶対に食べようと、
些細な夢だけど、ひそかにずっとそう思っていたのだ。



「好きなのを選んでいいぜ、俺、好き嫌いないし」

「うんっ!!!」


どれにしようかと、今までにないくらい目をキラキラさせながら
信哉はかじりつくように広告に見入った。



「・・・なんか俺、ピザに負けてる気がするんだけど・・・・」


京一郎はぽそりと呟いた。


















「わ・・・すごく伸びる・・・!!」

初めて食べるデリバリーピザは美味さもさることながら、
ふんだんに追加してもらったモッツァレラチーズに感動して、
思わずはしゃいでしまう。



信哉が上まで手を伸ばしても、
糸を引くように伸びるチーズに信哉は大興奮だ。


無邪気にはしゃぐ信哉を、じっと見つめる京一郎と目が合い、
ハッとして慌てて行儀よく食べ始めた。


好きに食べればいいと、京一郎も手に取ってガブリとピザにかぶりつく。


「なかなか美味いじゃないか!こいつにはビールだなぁ・・・」


そう言って、まだ明るい時間帯だというのに、
休みだからと言って、冷蔵庫から瓶ビールとコップを持ってきた。


「ぼ、ぼくがやるっ」

信哉は京一郎からビール瓶を奪った。


よくテレビで見かける、お酌をする光景。


『あなた、今日はお疲れ様』

なんて言って、妻が夫にお酌するシーン。
一人でいることの多かった信哉に、そんな機会はまったくなかったので、
密かにやってみたいと思っていたのだ。



「じゃぁお願いしようかな」

京一郎はコップを信哉に差し出し、
信哉はそれにビールを注いでいく。


泡がとても美味しそうだ。



信哉は京一郎が淹れてくれたコーヒーで、兄のビールと軽く乾杯した。



早く自分も、兄とビールで乾杯できるようになりたい。
そう思いながら、ピザを頬張り、兄との食事を楽しんだ。





とても穏やかな空気が流れている。




割とリアルな夢を見る信哉は、
これは夢ではないかと思ってしまう。


だいたい、楽しいとか嬉しいと感じている時は、
実は夢だったということがほとんどだったから。




幸せ慣れしていない信哉は、
こんなに幸せでいいのかと、逆に不安になる。





親戚とも疎遠で、
母ともゆっくり食事をとることもなく、
ずっと一人ぼっちだった。


信哉の知っている団らんは、
少しの間、タカとカズと過ごしたあれだけだ。




優しくなった兄と、タカとカズ。
大事な家族が一気に3人も増えて、信哉は幸せだと思った。




今まで信哉は、ワガママを言ってはいけないと
イイ子でいようといつも気を張って生きてきた。

困らせないように、
母親にすら甘えることができなかった。

誰かの手を、煩わせてはいけない。
自分が我慢すれば全てが治まる。

ずっとずっとそう思っていた。





でもこれからは違うのだ。


今まで信哉が得られなかったものを、きっと兄は与えてくれる。

甘えにもわがままにも、存分に応えてくれるだろう。




兄の愛の告白を聞いたとき、
二人を隔てていた見えない壁が粉々に砕け、
京一郎との絆が一気に深まったような気がした。



千切れていた糸を、ほどけないようにギュッとキツく結んだみたいに、
今までの亀裂がウソみたいに修復されていったのだ。


兄弟も恋人も、どちらもまだ、成りたてだけど、
きっとこれから二人で互いの絆を深めていくのだろう。





だが皮肉なことに、
その絆をを結びつけるきっかけになったのは、本郷との事件だ。


本郷とのことがなければ、
京一郎とはこのような関係を築くことはなかったかもしれない。


彼らに騙され、犯されたことで京一郎への想いを知った。


京一郎も、自分以外の男に信哉を奪われたことで
己の気持ちに気づいたのだ。

この事件をきっかけに、信哉が屋敷を出て行かなければ、
信哉はあの屋敷で、いまだに冷遇されていただろう。




そう思うと、感謝こそはしないが、
本郷のこと憎む気持ちにはならなかった。




「・・・信哉・・・学校はどうする・・・?あいつの顔、見たくないなら
転校も視野にいれていいんだぞ」



ちょうど、本郷のことを考えていたときに、
突然言われたものだから、一瞬、心が読まれたかと思った。




「・・・ううん、大丈夫。しばらくは気まずいかもしれないけど・・・
本郷くんのことは、今でも嫌いじゃないんだ・・・不思議なんだけど」



京一郎は、信哉の気持ちを察しているのか、
そうか、と一言呟いただけだった。




確かにしばらくは、お互いに気まずいだろう。

でも信哉は思うのだ。


本郷とは、やっぱりちゃんと友達になれる気がする。


許すには時間はかかるかもしれないけれど、
なんの根拠もないけれど、
確かに信哉はそう感じたのだ。


人を憎むエネルギーほど無駄なものはない。


そんな無駄なことに時間と労力を費やすよりは、
大好きな人のことを考え、
自分を愛してくれる人の為に笑って生きた方が絶対に幸せだ。



信哉は、京一郎の為にも、笑って生きることを決めたのだ。



「ささ、兄さん、どうぞ」

そう言って、信哉は空になった京一郎のグラスにビールを注ぐ。



「信哉・・・・ありがとう」

ふわりとほほ笑む京一郎に、信哉の胸がキュンと弾む。


今までの苦労や悲しみを、その笑顔がすべて吹き飛ばしてくれた。


大好きな人とのこの幸せな時間が、
ずっとずっと続きますように。



そんな思いを込めて、
信哉はコーヒーカップで兄のグラスともう一度、乾杯をした。







****





翌朝。




「京一郎・・・お前・・・・」



「・・・・ん?」

壮絶な倦怠感に襲われる身体に叱咤しつつ、声のした方に顔を向ける。



「・・・なんだ・・・親父か・・・・」

ぼふっと音がしそうなくらい脱力した頭を枕が受けとめる。






ん・・・親父・・・。







親父!?





ガバッと勢いよく起き上がれば、盛大に掛け布団もめくれる。
そして、隣で寝ていた信哉のしなやかな裸体もまた、
父親の前に晒されてしまった。


昨夜も散々愛し合ったばかりだ。

京一郎は慌てて信哉をシーツに包み直す。




「ちょ・・親父っ・・・!何勝手に入ってんだよっ!」


「何って、前にお前、俺に合いカギ渡したろ・・・何かあったときの為にって」


そういえば、そんな事をしたような気もしなくもない。


だが、よりによってこんな時に。



「信哉の事が気になって様子を見に来てやったんだが・・・」


だが父親は、ニヤニヤと卑下た笑いを浮かべ、
京一郎にじろじろと無遠慮な視線をぶつけている。


「まさかお前が信哉とそんなことになっているとはね〜。
なんでパパも混ぜてくれなかったんだ」



そして案の定、とんでもない言葉を口走る。

いや、想定通りの言葉なだけに、ガクリと力が抜けた。




世間の常識と、少し違うところにいるこの親父殿は、
血の繋がった兄弟で愛し合っていることを咎めるより、
なぜ自分を混ぜてくれなかったんだと拗ねて見せた。

本来なら、絶対に許されない行為をさらりと流してしまうこの親父。


呆れを通り越して流石だと言わざるをえない。


「信哉く〜〜ん」

「おい、せっかく寝てるんだから起こすなよ・・・」



「いいじゃないか寝顔見るくらい・・・。本当に信子くんにそっくりだねぇ・・・」


「・・・そうだな・・・」

信子とは、信哉の母親の名前である。


「信子くんのことは・・・あの頃は俺も若かったし、
なんにも考えてなかったからなぁ・・・。今ならもっと上手く立ち回れるのだが・・・。
こうして今考えると、本当に申し訳ないことをしたと思ってな」

信哉の寝顔を覗きこんで、父はいつになく殊勝な顔を見せた。


過去の己のだらしなさと、いい加減さが、
たくさんの人を傷つけたと、父はぼそりと呟いた。


だが、そんな父親だったからこそ、
信哉は京一郎の弟としてこの世に生を受けたのだ。


今思えば父親の女癖の悪さと、
禁断の関係を丸ごと受け入れる闊達さに感謝すらしてしまう。



(もしかしたら・・・信哉以外にも・・・弟とか妹がいたりして・・・)


そのゼロではない可能性に、京一郎は思わず苦笑いを浮かべた。


「ん・・・・?う〜〜〜・・・・」


「信哉・・・」



「ほら、親父がうるさいから・・・・」



二人の会話に、もぞもぞと信哉が起き始めた。




「なぁに・・・?」


昨夜、散々京一郎に喘がされ続けたその声は少し枯れ、
男に愛された色気がダダ漏れになっている。



白い身体には、京一郎が夢中で付けた赤い跡が散らばっていて、
その艶っぽさに、京一郎も父もゴクリと生唾を飲み込んだ。





「おい親父、見るな!」

信哉をシーツで包み、父に見せないようにする。





「・・・ん・・・兄さんが二人いる・・・」


だが、寝ぼけているのか、
父を見てそんな事を言う始末。


「ば・・・おま・・・!」

確かに京一郎と父は似てはいるが、だが、間違われるとちょっと不愉快になる。




「こら、信哉!起きろ!親父だよ、こいつは・・・!」

その言葉に、信哉もハッとなり、目が覚めたようだ。






「えっ、あっ、だ、旦那様・・・!?」

慌てて、包まっていたシーツをさらに硬く掻き抱き、
さらに京一郎がその上を覆うように、父親から信哉を隠す。




「信哉、今度パパとも一緒にお風呂・・・」
「帰れ!!」



ほら・・・すぐこれだ。



なにせ、京一郎の尻すら揉んでくるような親父だ。


危険な香りを京一郎は察知する。
そんな親父と信哉を二人っきりになんてさせられない。


さっきの殊勝な親父は、一体どこへ行ったのか。



「ふふふっ・・・」

突然信哉が笑い始めた。




「信哉・・・?」


「仲、良いなって思って・・・見てて、楽しい」

「そうかそうか」



どさくさに紛れて父親は信哉の横に腰を下ろし、京一郎ごと信哉を抱きしめてくる。




「お、親父・・・・!」

「いいんだよ、二人とも可愛い俺の息子だからね〜」

そう言って二人の頭をぐりぐり撫で回す。



「・・・まぁあれだ、信哉も無事でよかった」

なんだかんだで、父も信哉が心配だったのだろう。



父親から頭をぐりぐり撫でまわされている信哉はとても嬉しそうだ。


明らかに、あの屋敷に居た時には見られない表情で、
それに京一郎も安堵する。



「信哉、もっとパパに甘えていいんだよ〜」

そう言って、信哉の頬にキスをする。

「わっ」

「おい親父!」

「なんだなんだ、信哉だけズルいって?
お兄ちゃんは寂しかったのか〜、そ〜れ」

「ぎゃっ!やめろっ!!」


そして、あろうことか、なんと京一郎には唇にダイレクトなキスを仕掛けてきた。

ごしごしと拭えば、父がひど〜〜いとおどけてみせる。



二人のやり取りに、信哉はとても幸せそうに笑っていた。


その信哉の笑顔が、京一郎をどんどん幸せにしていく。


その笑顔を、ずっと護っていくことが、自分の成すべきことだと思った。
そう思った途端、なぜか京一郎の眼頭が熱くなる。






ああ、どうか。


どうか、信哉が・・・ずっと、ずっと幸せでいられますように。



ずっと、俺の傍で笑っていますように。







〜おわり〜


番外編「甘くて痛くて切なくて」へ


あとがきのようなもの

【追記:2015/05/06】
あらためて、こんな駄作を読んでくださり、ほんとうにありがとうございます。

修正するにあたり、酷い矛盾などは大幅に改訂させていただきました。

細かい矛盾は・・・力不足で、なかなかうまくいきませんでしたが、
以前のよりは、多少はマシになったのではと・・・。

最後の父親との掛け合い部分、
カットしようかとも思ったんですけどね。


やっぱりちょっと父親の思っていることとか、
簡単な人となりとか、そんなのを書き加えて、
ちょっと修正して残してみました(*´▽`*)


付け足した部分、カットした部分、色々大変でしたが、
またこの兄弟を書くことができて、とても楽しかったです。


各作品下部にある、当時の言い訳(コメント)も、そのまま残してみました。


また、気が向いたら、
番外編など書きたいと思ってますので、これからもどうか、お付き合いの程
よろしくお願い致します<m(__)m>



【当時のあとがき】
はぁ、はぁ・・・なんとか終わることができました。
はい、ひとまず完結です。

長い間、こんなヘボ小説を読んでくださっている方々・・・


本当にありがとうございます!


色んな矛盾や、おかしな所がたくさんあったり。

相変わらずの文章で、期待外れ・・・や、期待ないんてしてる人はいないでしょうが、
そんな、ちいたの世界にお付き合いくださり、本当にありがとうございます。

ホントはもっと、あんなことやこんなことを入れたかったのですが、
私には無理でした・・・。


心理描写も、相変わらず難しくて、自分が思い描いている状態をなかなか言葉にできず、
大変もどかしい想いもしております。


尻すぼみな感じになってしまいましたが、ホームページを作って以来の長編になってしまいました。


でも、最後は、独りだった信哉に、やっと頼れる家族ができたんだ、
信哉は幸せになったんだって云う感じが伝わっていたらいいな〜。


うん、信哉は絶対に幸せです。
あえて、お兄さんの願いみたいな感じで終わらせてみました。



2012/06/14
2015/05 修正