誰にも言えなくて2

「コレがあの女のガキか?」


値踏みされるように、
信哉のほっそりとした身体に不躾な視線が落とされた。


「こらこら、京一郎・・・コレはないだろう。一応、お前の弟なんだぞ?」




「そうだな、一応、ね」


父に咎められ、フンっと嘲笑を向けるのは、
10歳上の腹違いの兄、橘 京一郎(きょういちろう)だ。



この書斎に連れてこられたとき、一目で自分の兄だと分かった。



父親を若くしたような容姿に加えて、
さらに知的で怜悧な美貌が、冷たい印象を与える。


父を超える長身から見下ろす兄の視線は、信哉を怯えさせた。



「・・・俺は、コレを引き取るのは反対だって言っただろ」



「だがなぁ・・・、母親が亡くなったのに、
私が知らん顔、というわけにもいかんだろう。
この子が私の息子だということは、周知の事実だからな。
・・・だが、お前が弟として受け入れなれないと言うのであれば・・・」


そこまで言って、端正な顔が悪い笑みを浮かべる。





「家と会社の為の、慈善事業だと思えばいい。
独りになった妾腹の子を迎え入れるってのは、
世間が十分に面白がるだろうし、橘への関心も高まるんじゃないか?」



「・・・・・・なるほどね・・・・」

似た顔が同じように笑う。

京一郎を納得させる為とはいえ、
本人を目の前に、平気でそのような会話をする二人を見て
信哉はぞっとした。


もちろん父親の方には悪気は一切ない。

ただ、そういった相手に気を使うといった部分が
ちょっと人よりズレているようだ。




だが確かに、父の言う通りで、
世間では母は相当な悪女だ。

にも関わらず、その息子を家族として迎え入れれば、
世間の橘家への評価は高まるだろう。



「・・・まぁ確かに、母親に似て顔立ちは悪くないしな。
なにがしかの利用価値は十分にあるかもしれないな」

京一郎はそう言うと、信哉の顎をつかみ、強引に上向かせる。


兄の鋭い相貌に、舐めるように凝視されると、
胸の奥がざわつき、肌が総毛立つ。



橘の家のために利用される。
その価値は、信哉には十分にあるらしい。


「・・・それなら、大学くらいまでは面倒みてやってもいいのかもな。
卒業後は、橘の為に役に立ってもらうからな、信哉」


不意に名前を呼ばれてドキリとした。


京一郎は最後に、信哉を上から下まで無遠慮に見つめると、
フンと鼻を鳴らし、束ねていた書類を革製の鞄に入れ、
書斎を出て行った。



「さ、信哉。さっそくお前の部屋へ案内しよう。」


信哉を道具としてしか考えていない会話など、
まるでなかったかのように、
父は書斎を出るように促した。


その手はさりげなく信哉の細い腰へと回されていて、
信哉は心地の悪さを覚えた。





書斎を出てすぐ隣の部屋が兄の寝室で、
気付く余裕などなかったが、先程の書斎と中で繋がっているようだ。


その斜め向かいに信哉の部屋は用意されていた。



室内は豪奢な外観とは違い、
北欧をイメージしたシンプルな作りだった。


備えられたインテリアは、どれもこれも美しいフォルムだ。

でも、だからこそ、その無駄の省かれたシンプルな形状は、
温かみがあるはずなのに、
今の信哉にはとても寒々しく、寂しく感じられた。



「あ、あの・・・旦那様・・・・!」

まだ、腰にまわされたままの腕が、どうにも心地が悪く、
その腕から逃れようと身じろげば
逆に、向い合せにされ、ぎゅっ・・・と抱きしめられてしまう。



「旦那様はよしなさい。
ちゃんと父として呼びなさい。・・・私の・・・息子なのだからね・・・」

狼狽する信哉を他所に、
何のパフォーマンスなのか、さらにきゅ・・・と力がこめられる。


その手は、背中を通り過ぎ、
そして、柔らかい尻の上を這い回る。




「・・・っ、あ、あの!」


信哉はあわててその腕から逃れようとするが、
その腕は外れない。


仕方なく、父の腕に収まったまま、
信哉は必死に告げた。


「あの、僕、こんな立派な部屋いりません。
息子ではなく、使用人として、僕をここに置いてください・・・!」


その方が気が楽だった。

だがそれはあっけなく却下された。



それこそ、
妾の子を下働きに使っているというのが漏れると
外聞が悪くなるというのが理由だった。


どうあっても、
妾腹を「息子」として家に迎え入れたという、
寛大な御家というのをアピールしたいようだ。


「いいかい?もう一度言うが、信哉、お前も私の息子なのだよ」



そう言って、最後にぎゅうっと抱きしめると、
やっとのことで信哉を解放してくれた。


先程の兄の視線といい、父の態度といい、信哉は落ち着かない。


ふい・・・と視線をそらせば、
開いたままになっていたていたドアのところに
いくつかの箱を乗せた台車を押した、女性の使用人が立っていた。

信哉を睨みつける鋭い視線と目が合い、ヒヤリとする。



もしかしたら今しがた、
自分が父に抱きしめられていたのを見られていたかもしれない。


胸がざわめき、嫌な汗が流れる。


「旦那様。信哉さまの身の回りのものをお持ちしました。」


その女性から発せられた声は、明らかに嫌悪を含んでいる。




「じゃあ信哉。なにかあったら、お父さんに連絡しなさいね。」

うつむくしかできない信哉の頭をぽんっと軽く叩き、
上辺だけの親愛の情を形造ると、
連絡先の書かれた名刺を信哉に手渡された。


「では、私はしばらく戻らないから、あとは信哉のことを頼むよ。」

使用人にそう告げて、父は部屋を出て行った。







「なんであの女の息子にこんな高価なものを・・・
豚にくれてやった方がまだマシだわ・・・」


父の姿が見えなくなるなり、
その女性使用人は途端に毒を吐き始めた。


父の命令で準備されたそれらは、
質の良い高級ブランドのものばかりのようで、
体裁を取り繕うためとはいえ、
これらを信哉が身に纏うことに納得がいかないようだ。


それらを台車から降ろしながら、
ぶつぶつと文句を言っている。


「あ、あの手伝います」


そう言って手を伸ばした信哉の手は、
思いっきり払いのけられた。



「勝手なことしないで!!」


「・・・っ」

あまりの迫力に気圧されてしまう。


「母親と同じ顔して、同じようなことされちゃ堪んないのよね!
これはアタシの仕事よ!」


勘弁してよ、と顔をしかめながら、
台車から全ての荷物を降ろし終えた。



信哉の母親は、大層美しい女だった。

ぱっちりとした形の良い二重瞼で、猫を思わせるような大きな瞳。

肌は白く、ほっそりとしているのに、
豊満な胸が人目を惹くには十分だった。



手先は器用で仕事もこなし
気配りもできる、心根の優しい女性で、
まさに非と打ちどころは一つもなかった。

当時の屋敷の男たちは誰もが彼女に惹かれていて、
もちろん、父親も母の美しさに夢中だった。



そんな母親を、屋敷中の女たちが妬まないはずがなかった。



母親と同年代くらに見えるこの女性も、
当時、母のことを妬んでいた一人だろう。

そんな母親に、信哉はそっくりなのだ。





この使用人含め、
屋敷の人間は皆、正妻と京一郎の味方である。


母親の面影を色濃く残す信哉の容姿は、
ここの住人たちの神経を逆撫でするものでしかないようだ。





「あんたの顔、ほんとに不愉快だわ!」

そう吐き捨て、部屋を出て行ってしまった。




シン・・・・と静まりかえった部屋は、その広さを強調する。

独り取り残された空間が、信哉の肩に重くのしかかった。




「・・・・・堕ろせばよかったのに」
「・・・・っ・・・」

扉の向こうから、わざとらしく聞こえてきた心無い声に、
信哉の心は激しく傷ついた。












その日の夜、
信哉が京一郎や正妻と同じ食卓を囲むことは許されなかった。

部屋でたった独り、信哉は寂しい夕食を迎えた。


運ばれてきた食事の蓋をあけると、
信じられない光景が飛び込んでくる。


「・・・・・っ」

食事の中には、 数本の長い髪の毛と、虫の死骸が入っていた。
意図的に入れられたものだと容易に想像がつく。


幼稚な仕打ちに、悲しい気持ちなってくる。

結局一口も口を付けることができず、
その日は、部屋に備え付けてあるサニタリールームで水を飲み、
空腹を紛らわせた。






気を取り直し、身の回りのものを粗方片づけ終えたころに、
ベッドサイドテーブルに備えつけてある内線が鳴った。



呼び出しの相手は兄、京一郎だった。



「今すぐに、俺の部屋に来い。」

冷たい声でそれだけ告げると、京一郎は一方的に電話を切った。




ツー、ツー、と定期的に繰り返される機械音を聞いたまま、
信哉は動けなかった。

声が、とてつもない怒りを孕んでいたのだ。


受話器を戻し、深呼吸をすると、
信哉は京一郎の部屋へと行く覚悟を決めた。





扉をノックすると、部屋の主に入るように促される。

「失礼します。」


さぞ豪華に飾り立ててあるだろうと思われた兄の部屋も、
極めてシンプルだった。

どうやらここの住人は、
べたべたと飾り立てるのはあまり好きではないらしい。



部屋の奥の中央には、キングサイズのベッドが配置されており、
その横に、皮張りのゆったりとしたソファと
丸いテーブルが置かれ、
下には光沢のある毛足の長い大きな楕円形のラグが敷かれている。



京一郎は、そのソファに身を深く沈め、
ウィスキーの入ったグラスをゆっくりと傾けていた。



風呂あがりなのか、髪は濡れ、
シルクのガウンをさりげなく羽織り、
足を組んでいるその佇まいはとても優雅で、
思わず見惚れてしまうほど色っぽい。




「鍵をかけて、こっちへ来い。」


だが、その優雅な雰囲気とは裏腹に、
声には怒気が含まれている。




「はい・・・」

言われるままに施錠し、
すくみそうになる脚を叱咤しながら、京一郎の傍へと足を進めた。

「あの・・・」

自分がなんのために呼ばれたのか、問おうとしたその時、
乾いた音とともに頬に鋭い痛みが走った。

「・・・っ!」

一瞬、自分の身に何が起きたのか分からなった。


じんじんと痛む頬を、冷えた手で押さえ、
頬を張られたのだと理解する。




「あ・・の・・・?」


「・・・さっそくオヤジをタラし込んだんだって?」
「!?」

馬鹿にしたように、
まるで汚いものを見るような視線が信哉を見下ろす。


「な・・・なんの・・・ことでしょうか・・・?」

「とぼけんなよ」

そこまで言われてハッとする。

昼間、父に抱きしめられた時のことを思い出した。

やはり、見られていたのだ。
あのメイドが、京一郎に告げ口をしたに違いなかった。



「やっぱり、アバズレの子供もアバズレなんだな。やることが違うね。
母親がダメだったから今度は自分が取り入ろうって?」

「ちが・・・」
「違わねぇだろ!」

バシンっと、さっきよりも強く頬を張られる。


勢いでベッドの上に倒れ込み、
張られた衝撃で耳がキーンと鳴った。



ギシ・・・とマットレスが沈み、
京一郎が上に覆いかぶさってきたことに気づき慌てた。


「なぁ・・・・その身体で今まで何人たらしこんだんだよ?」


逃げられないように、両腕に挟み込まれる。



「そうとう貧しい暮らしだったんだろ?
生活費の足しにするために、この身体を売っていたんじゃないのか?」


あまりの侮蔑に目を瞠る。

「してませんっ!・・・そんなこと・・・してなっ・・・あぁっ!!」

言い終わらないうちに、
三度目の平手打ちが、信哉の頬に下された。


「そんな可愛い顔して・・・寄ってくる男がいないわけないだろう。
お前の母親がそうだった・・・。
アバズレはアバズレらしく、男に突っ込まれてよがってりゃいいだろ?」


母を侮辱する言い方に怒りを覚える。

確かに、屋敷を出てからも母に想いを寄せる男は多かったが、
母は身持ちが固く、男性と交際することはなかった。


いつでも信哉のために、一生懸命だった。




だが、そんなことは京一郎に関係ないのだ。



京一郎の手が、信哉の身につけている服にかけられる。

「イヤっ・・・いやっ・・・!やめてくださいっ・・・あうっ!」


暴れれば容赦なく、京一郎の平手が飛んでくる。
とうとう口の中が切れてしまった。


これ以上逆らえば、どうなるのか分からない。
信哉は恐怖に震えた。


「どうせ親父とヤるつもりだったんだろう?だったら俺でも一緒だろ」



信哉の服は左右に引き裂かれ、ボタンが勢いよくはじけ飛んだ。



白い肌が、京一郎の目に晒される。

胸の桃色の突起、、そして視線を下へと流せば、
きゅ・・・としまった細い腰に、京一郎の目は釘付けになった。




「どうせ親父は海外でしばらく帰ってこない。
その間は俺がこの家の主だ。」

「っ・・・・!」

くびれのあるただらかな腰のラインを撫でまわす。


手が這う度にぞわりとした。


その手はやがて、
信哉が履いているものを、下着ごとはぎ取ってしまった。


性的な知識の乏しい信哉でも、
自分が何をされようとしているのか容易に想像できた。


衣服を全てはぎ取られ、明るい場所で裸体を晒す。



「や・・・・」

そう言ったところで信哉は自ら口をふさいだ。

抵抗の言葉を口にすれば、また暴力をふるわれる。
ぎゅ・・・と目を閉じ、恐怖と羞恥に耐えた。


「へぇ・・・」


感心したように、京一郎は信哉の肌を撫でまわし、
その触り心地を堪能する。



うっすらと陰毛の生えかけたのそこに、京一郎の手が触れれば、
信哉の身体はビクっと震えた。

「っ・・・・!」

ぞわりと湧き上がる感覚をどうやって逃がしてよいのか分からず、
身体をよじる。


信哉がいろんな男を誑し込んでいると思っている京一郎は、
その初心な反応を、淫乱な感じやすい身体だと受け取ったようだ。


薄い陰毛をを撫でまわしていた手は、
少し勃ち上がりかけた信哉の性器をスルーすると、
太ももの裏側へと滑り、
そしてそのまま腿を左右に開いた。


「やっ・・・・!」

秘めた部分が晒されてしまい、信哉は小さな悲鳴を上げる。



だがその羞恥は、
取り出された京一郎の猛りによって恐怖に代わった。

どくどくと脈打ち反り返ったそれは、
信哉を怯えさせるほどに大きかった。


「俺は、・・・お前を弟だとは認めない・・・この淫乱が・・・」



京一郎は、獰猛に猛ったその凶器を、
慣らしもしない信哉のそこへ、強引にねじ込んだ。



「うああぁぁあっ!」


あまりの激痛に、目の前に火花が散る。
まるで身体を二つに引き裂かれていくようだ。


「・・・っ、信哉・・・、お前っ・・・・・っ・・・」


何かを言おうとした京一郎は、
あまりのキツイ締め付けに言葉を遮られたのか、
そのまま口を閉ざしてしまった。



ぬるっとした、生温かい感触。


剛直をねじ込んだそこからは、血が流れ出し、シーツを赤く染める。


「ひっ・・・い・・いや・・だ・・・いやぁ・・・!!」


信哉が激痛に悲鳴を上げても、
京一郎は蹂躙することをやめなかった。


血液のぬめりを借りて、欲望のままに注挿を繰り返す。


「あ・・ああっ・・・・うあぁっ・・・・」

太く猛ったもので、裂傷した入り口を何度も擦られる。
死んだほうがマシとも思える激痛。

信哉は泣き叫んだ。


気を失ってしまいたかったが、それすらかなわず、
地獄のような苛みに、京一郎が達するまで、ただひたすら耐えた。




京一郎が呻き、信哉の中が熱で満たされると、
凶器がずるりと引き抜かれた。


やっと、地獄のような苛みから解放されたが、
あまりのショックで身体は重く、思うように動けない。



「おい、いつまで俺のベッドで寝ているんだよ」

吐かれる冷たい言葉に、自らを叱咤し、
痛みを堪え、立ち上がれば、
京一郎の放ったものが鮮血とともに脚を伝う。


「・・・っ・・・・!」

「・・・・もう用は済んだ。さっさと出て行け。」

身も心も傷ついた信哉に、京一郎の言葉がさらに追い打ちをかける。
もちろん、心配などされるはずがない。


兄の顔を見ることはできなかった。
そんな勇気など、なかった。


「・・・・はい・・・・」

貫かれた場所の痛みを耐え、
衣服を拾いあげると、鉛のように重たい身体を引きずりながら、
京一郎の部屋を後にした。




自分の部屋に戻り、扉にもたれたまま、ずるずるとへたり込む。




(一体、僕が何をしたというのだろう・・・・。)


幼少のころから、子供らしく甘えたこともなかった。
わがままなんて以ての外だった。


ただただ母親に迷惑をかけたくなくて、
大きくなったら母親を助けようと心に誓った。


でもその母は死んだ。

死んでまで母は侮辱された。

そして自分も、実の兄から凌辱されてしまった。



母の為に、正しくあれと頑張ってきた。
こんな目に遭うほどの悪いことを、自分がしたとでもいうのか。

神がいるなら、恨んでしまいたい。





その夜、信哉は熱を出した。

だがもちろん、看病してくれる人などいるはずもなく、
震える身体を自らかき抱き、信哉はたった独り、静かに泣いた。


 
3へ
…今回は、書いててとても痛かったです。
でも、もう少し京一郎を鬼畜にしてもよかったかな・・・?


2009/12/03

2015/05 修正