誰にも言えなくて6


「・・・何がもうイヤなんだ?」


突然の声に身体がビクリと跳ねた。


「あ・・・・お・・・兄様・・・!」


いつの間に帰ってきたのか、京一郎が部屋の入り口に立っていた。

腕組みをし、扉にもたれ掛っているその姿は、
相変わらず絵になるほど様になっている。







「何が嫌なんだ信哉」


そいう言って信哉のベッドにゆっくりと近づいてくる。


いつからそこに立っていたのか、
どこからの行為を見られていたのか。


それを考えると、羞恥で顔が上気する。



傍までくると、何も履いていない信哉の、
足先から股間の辺りまでを舐めるように見つめて、
にやりと卑下た笑みを浮かべた。



恥ずかしくて、兄の顔をまともに見ることができず、俯いてしまう。



「こんなにベタベタにして・・・」

そいう言いながらベッドに乗り上げ、
信哉に覆いかぶさる。


「俺を待ちきれなくて、一人でオイタか?
そんなにコレが待ちきれなかったのか?」


そう言いながら、
京一郎は膨らみかけた己の股間の部分をさすってみせた。



「・・・がっつり3本挿ってたもんなぁ〜・・恥ずかしいったら・・・なぁ信哉・・・」

「・・・!!」


やっぱり自慰行為を見られていたのだ。


先日の、口で奉仕しながら、
自分の蕾を解すという羞恥プレイよりも恥ずかしく、
顔から火が出そうで、思わず顔を両手で覆った。



「俺がいつもの時間にいなくて、挿れてもらえなかったら寂しかったのか?」


京一郎が信哉の耳元に、官能を煽る低い声で囁けば、
ぞくりとしたものが下肢にダイレクトに響く。

それが期待にすり替わると、
さっき放ったばかりなのに、信哉の性器は頭をもたげ、
先端に蜜が浮かぶ。



「ちが・・・」

「へぇ・・・、どうした?違う割には濡れてるぜ?」

「あっ・・・!」

勃ち上がったそれをぴんと弾かれた。


「どう違うんだ」

「んっ・・・」

さっきまで信哉がそうしていたように、
潤っている信哉の蕾に、京一郎が三本の指を潜り込ませてきた。


信哉のよりも太い、男らしい指に掻き混ぜられると、
自分でいじるより大きな快感が生まれる。


「ほら、すごくひくひくしてるぞ、お前のココ」


でもそこが本当に欲しがっているのもは指なんかじゃない。
硬くて熱い剛直を、今か今かと待っているのだ。


それを京一郎はちゃんと分かっている。


分かっているからこそ、焦らすように、
指で、信哉の中を弄んでいるのだ。


ひとしきり堪能すると
指をずるりと引き抜き、そして信哉の蕩ける蕾に、熱い猛りを押し当てた。



「・・・お前が嫌なのはさ・・・・」

そう前置きすると、京一郎は腰を一気に進め、最奥を熱が穿った。

途端にしびれるような快感が全身を駆け巡る。


「ーーっ!!!」


「・・・俺のこと・・・大っ嫌いなのに、
挿れられただけで気持ちよくなっちまうのがイヤなんだろ?」


京一郎の言う通り、
兄の猛りが挿ってくるだけで、どうしよもないくらい気持ちがいい。



「・・・んっ・・・・」

ぴくぴくと身体が震え、
待ちかねたように、内側の襞は京一郎の凶器に絡みつく。




そしていつものように、ぐちゃぐちゃに掻きまわされ、擦られ、
突き上げらて、信哉は快楽の渦に突き落とされる。






この行為に、ホッとする自分がいることなど認めたくない。




「も・・・やめ・・・て・・・っ!あっ・・・あぁんっ・・・あっ」


ピクリと反応した京一郎に気付き、はっとなる。

抗議の言葉を口にしたとき、どんな仕打ちが待っているのか、
言ってしまったあとで後悔した。



顔に近づく京一郎の手に、頬を叩かれるのだと思い、
反射的に目を瞑った。

だが、覚悟したような痛みはなかった。



代わりに顎を掬われ、京一郎の親指が信哉の唇に触れる。

「へ〜・・・結構いい声出すじゃねぇか・・・」

「・・・っ!?」


しまった、と思った。
知らず知らず、声が出てしまっていたらしい。


悔しくて、
もうこれ以上、声を出してなるものかと、
再び口を固く結ぶ。

絶対に声なんか出さない。

これは信哉にとっての精一杯の抵抗なのだ。


なのに、京一郎から送り込まれる快感は容赦ないもので、
あまりの気持ちよさに負けてしまいそうになる。



「やっ・・・あぁっ!・・・んっ・・・!」

両手で口を塞ぐ。

「もうちょいだな・・・お前が堕ちるのも・・・」



悔しかった。


心まで隷属を誓うような真似だけはしたくない。
そう思い、信哉はぐっと堪える。



だけれども、荒くなる呼吸。
どんどん熱く火照る身体。



「・・・っ・・・あっ・・・!」

我を忘れそうなほどの快楽が信哉を襲う。

信哉の絶頂が近いことを見て取った京一郎は、
信哉の中の敏感な突起を、何度も何度も容赦なく突き上げる。


灼熱に激しく前立腺を摩擦され、
気が狂いそうな程の激しい快感に、信哉はとうとう根を上げた。


「あっ!ああっ・・あぁっ・・・ん!!」


「・・くっ・・・・!」

己の中が、京一郎を、
全力でぎゅうっ・・・・っと、締め付けるのが分かる程だった。



「あ・・・・あ・・・・っ・・・!」



何度も何度も痙攣するそれは、、京一郎の猛りに纏わりついて離さない。



いつもと違い
声をあげて迎える絶頂に、なんとも言えない開放感があった。



まだ息が整わないまま、
悔しくて兄に目をやれば、とんでもない状態になっていた。


信哉の放ったのもが、
兄の顔にかかってしまっていたのだ。




「あっ・・・・!ご、ごめんなさいっ・・、兄・・・・さま・・・」


顔射が、一般的に好まれていないという知識がなくても、
自分のもので兄の顔を汚したとなれば、どんな怒りをかうだろうか。

どんな制裁が待っているのだろうか。


信哉はおびえながらひたすら謝った。
だが。


「へぇ・・・イク時、可愛い声、出せるじゃないか。」


京一郎は、あろうことか信哉の体液をぺろりと舐めてしまった。

予想外な行動に驚きを隠せず、
さらに申し訳ない気持ちに苛まれる。


そんな信哉に、
京一郎の雄芯はまったく萎えず、再び律動を開始した。


「・・・や・・・やめ・・・・やぁっ・・・!」

想像以上に、
自分の身体は、兄によって変えられてしまっているようだ。




これまでのようには行かなかった。



「・・・あっ・・・!」


必至で耐えてはいるものの
時折、堪え切れずに甘い声が漏れてしまう。


そのたびに信哉は、下唇を噛み、声を押し殺そうとする。

それが京一郎は楽しいようだ。



信哉が甘い声を上げて達したことが、
ことのほか京一郎の機嫌を良くしたようだ。



激しく奥まで突き上げ、惜しまずに快楽を送り込む。





「・・・・くっ・・・!・・・んくっ!!」


パンパンと皮膚の同士を打ち付ける音が響き、
京一郎の汗が、信哉の身体に散っていく。



信哉は、その拷問ともいえる快楽に、
ただただ耐えることしかできなかった。















朝日が信哉の顔に触れ、その心地よさに目を覚ます。

だがその心地よさとは裏腹に、身体はいつものように重だるい。

結局、気を失うまで激しく貫かれた。



何度も何度も絶頂を迎え、気を失う。
いつもその繰り返しで、まるで、おもちゃのような扱いだ。


やるだけやって、ほったらかし。



だが、今朝は珍しく、信哉の身体に毛布が掛けてあった。

ただの気まぐれなのかもしれないが、
それでも、少しだけ嬉しく思ってしまう自分に、虚しさを覚えた。






いつものようにシャワーを浴びて禊を済ませ、学校へ行く支度を始める。
その支度時間が、この家での唯一楽しいひと時だ。

学校へ行ける。

学校へ行けば、
この針のむしろの中にいるようなようなツライ思いをしないですむし、
学食でまともな食事もできる。



それに、なんと言っても本郷に会える。
その気持ちだけで温かい気持ちなれるのだ。














「おはよう、本郷くん」
「お、橘!おはよう!」

信哉よりも早く登校している本郷に、自分から声をかける。




爽やかな笑顔がいつもまぶしくて、毎夜の苛みを浄化してくれるようだ。





いつものように、本郷が信哉の机にやってきて、取り留めのない話をする。



そんな二人を、周囲は相変わらず遠巻きに見ているだけだが。







午前の授業も終わり、
ラウンジで昼食を済ませると、
いつものように久世のいる保健室に向かった。



保健医の久世と本郷がやたらと仲が良いのは、
実は従兄同士だと知ったのは最近のことだ。






久世は本郷の親から、
彼のことを気にかけるように言われているらしい。
どこの親も、息子のことは心配なのだろう。

信哉の父親は、そうではないらしいが。



(そういえば・・・本郷くんのとこの会社・・・なんていう名前だったっけ・・・?)


橘グループのように、そのままの名前ではなかった気がする。


そんなことを考えているうちに保健室へと着いた。
相変わらず豪奢な保健室である。





「あゆ兄ぃ〜〜〜〜。いる〜〜〜?」



本郷の呼びかけに、久世の応答はない。

どうやら外出しているようだ。

もし居れば、
「学校で『あゆ兄』はやめろ」と、ゲンコツがまわるタイミングだ。


「いないみたいだな。ま、帰ってくるまで、ここでゆっくりしてようぜ」





そう言って、場にそぐわないふかふかのソファに腰を下ろす。

・・・だけど、本郷の様子がいつもと少し違う気がした。


いつもよくしゃべる本郷が、すこし黙って考え込む。

そして、しばらくすると、決心したように口を開いた。






「なぁ・・・・・・橘・・・。その・・・何?その・・・首んとこの・・・跡・・・」


「え!?」


指摘されてギクリとなる。



「えと・・・・っ、む、虫・・・かな・・・?」


動揺を悟られないように返す。
これは夕べ京一郎が付けたキスマークだ。


体面を気にする兄が、
まさか見える位置に跡を残すなんて思ってもいなかったから、
思いっきり油断していた。





「へー・・・、あんなキレイな屋敷でも虫とかいんの?」

「・・・・・っえっと・・・」

「・・・・どんな虫だか・・・」

「・・・」


何か言いたげな本郷に、信哉の胸がなんだかざわめく。



最近の本郷は、やたらと信哉の近辺を心配をしてくれる。

本当に全てを打ち明けてしまいたくなるほどに、
信哉を気にかけてくれている。

でも、知られてはいけないから、
信哉はなんでもないフリをしなければならなかった。




だが本郷は、じっ・・・っと、信哉の首筋についた紅い跡を見つめていて、
それがなんだか居心地悪い。


「・・・どうしたの・・・?本郷くん・・・・」


その視線がイヤで、しばしの沈黙を破る。


「なぁ、お前、やっぱりさ・・・、
人に言えないような悩み・・・・とか、抱えてないか?」

「・・・え?」



ドクン、と、心臓が鳴る。


「・・・・・・・・・・・・何・・・が?」



「これってさ・・・」



真剣な本郷の瞳が、さらに緊張を帯びていく。

「キス・・・・マー・・・・ク・・・だよな?」


本郷の瞳に宿る眼光が、信哉を射抜けば、
一瞬、探られているような錯覚を覚えた。


だめだ、知られてはいけない。

たとえ、目の前の彼が、自分を救ってくれる唯一の人物かもしれなくても、
絶対に、誰にも、知られてはいけないのだ。




信哉は、すぅ・・・っと息を静かに吸い、目を閉じた。
そしてはっきりと告げる。


「・・・キスマークって、口紅の跡のことじゃないの?」


こんなとぼけ方をしたいわけではなかった。
だが今は、こういう言い方しか思いつかない。


「俺は・・・・・・、お前の力になりないんだよ・・・」

本郷は、とても複雑な表情をしていた。



その表情は、とぼける信哉を責めるには十分だった。



「橘・・・俺・・・・・」


真剣な双眸が信哉を捕らえる。
ドクン、とまた心臓が跳ねた。


逞しい本郷の腕が、信哉の腰にまわされ、
片方の手が、軽く信哉の顎を捉える。


「・・・!?」

突然、端正な本郷の顔が、近づいてきた。




キスされる・・・っ。
そう思ったとたん。



「やっ・・・・・ダメっ・・・!」

信哉は反射的に本郷を突き飛ばしてしまい、
本郷はそのまま勢いよく、床に倒れこんでしまった。




心臓が早鐘のように鳴っている。

どうして急にそういう行動に出たのだろう。
信哉は混乱していた。



「・・・痛てて・・・っ」

「ごめ・・・本郷くんっ・・・・!」


本郷の声に我に返り、あわてて駆け寄る。


「や・・・悪ぃ・・・謝んのはオレの方だわ・・・・ごめん・・・橘・・・・」

謝る本郷に、
信哉もなんとなく申し訳ない気持でいっぱいになる。


原因は本郷にあるにせよ、
倒れこむほど突き飛ばしたのは信哉の方だ。


「ほんとに・・・ゴメンね、本郷くん・・・・ゴメン・・・!痛かったでしょ・・・?」

心配で顔を覗きこみ、懸命に謝る。



「いや、大丈夫だ・・・・・俺こそほんとにゴメン」



本郷は、照れたように頭をがしがしと掻いていたが、
意を決したように、信哉の目を見つめて、

そしてはっきりと告げた。


「・・・諦めようと思っていたんだけど、正直に言うよ・・・
実は俺、お前のこと好き・・・なんだ・・・」



「えっ!?」

突然の告白に、頭が真っ白になる。



「初めて見た時から・・・すげぇ可愛いって思ってた」

そして再び、本郷の指が信哉の顎に添えられる。



「あのっ・・・でも本郷くんっ・・・」


本郷の指が信哉の唇に触れれば、
ぞくりとした感覚が下肢に生まれそうになる。



本郷の事は嫌いではない。


むしろ大好きだ。
憧れて尊敬できて、自分にないものを沢山持っている。


そんな本郷が、自分を好きだなんで信じられなかった。




それに、信哉はまだ、兄とも口づけを交わしたことがないのだ。

それなのに、本郷とキスをするなんて考えられない、
そこまで思ってハッとする。



なぜそこで兄が出てくるのか。


信哉はかぶりを振り、頭から兄を必至に追い払う。




「橘・・・」


名前を呼ばれて、ぱっと顔を上げる。


真摯な瞳とかち合った。


その目を見ていると、
だんだんドキドキと胸が高鳴ってくる。




「橘・・・俺のこと嫌いか・・・?」

信哉は首を横に振る。
嫌じゃないから困る。



「橘・・・好きだよ」



憧憬する相手からの告白に、悪い気はしなかった。


「目・・・・閉じて・・・・?」

囁くような本郷の声が、信哉の耳朶をくすぐる。



言われるままに、目を閉じた。


だが、目を閉じれば、昨夜の兄との交わりが鮮明に蘇る。


「やっ・・・!!」

本郷の唇が触れる紙一重のところで、
信哉は、やはり本郷から逃れて、保健室を飛び出してしまった。




どうしてまた兄が出てくるのか。

まるで、京一郎以外の人間が触れることを禁じているかのようだ。


「橘!!」


信哉を呼ぶ声がするが、
それを振り返ることができない。



兄の呪縛から解き放たれれば、自由になれるのに、
信哉にはそれができない。


信哉には、自分から前に踏み出す勇気はなかった。



7へ
とうとう本郷も動きだしました。とは言ってもアレですよ。
私の書く作品ですから。たいした展開にはならないと思います(-_-;)



2012/04/02
2015/05 修正