だって一緒にいたくて


「サンハイツ」シリーズの番外編みたいな?
序章と思っていただければ。

一成と鷹時が一緒に暮らすようになった経緯を駄文で綴りました。

エロもまったくありません。

サンハイツ1〜とは、また少し違った印象になってます。
暇つぶし程度の気持ちで読んでいただければと思います






「・・・あ?タカ・・・お前、今なんつった!?」

「や、だから俺、東京の大学に行くことにしたからって言ったの。
カズ・・・お前、相変わらず人話の聞いてねぇなぁ。」




お互い隠し事など何もない親友だと思っていただけに、
北条鷹時の突然の告白に、内場一成はショックを隠せない。



今まさに、口に入れようとしていた大好きなはずのプリンが、
テーブルに落ちても気にしていられない程に。 




いつもなら、お前が変なこと言うから!なんて理不尽にわめいて、
全然悪くない鷹時のせいにしてるのに。






それくらい大好きなプリン・・・ってそんなことは今はどうでもよくて。



「・・・・・聞いてねぇよ?」

寝耳に水ってこういうこと?

「つか言ったじゃん俺。高校卒業したあと、一年間働いて金貯めたら家を出るって。
それって大学いくためだって。」

「言ってたけどっ・・・でも東京だなんて聞いてねえよ・・・っ。なにも、新潟出ていかなくても・・・。」


しゅんとうつむくと、一成が落としたプリンを、ティッシュで拭っている鷹時の手に目が留まった。





鷹時が自分の側からいなくなる。
いつもこんな風に自分の世話をやいてくれる鷹時が、自分を置いて東京に行ってしまう。



東京でも新しく友達を創って、写メで自分に紹介して・・・。
そいつにも、やっぱりこんなふうに世話を焼いたりするんだろうか。


そしてそのうち、連絡さえ来なくなって、いつのまにか忘れられたりするのだろうか。



そんなの・・・絶対に嫌だ。


女の連帯感じゃあるまいし、と自分に言い聞かせてみても、
鷹時が、自分以外の人と友達として傍にいるなんて考えだくない。



中高生のころ、トイレにまで一緒についていく女子たちを見て、
どんだけ一緒にいたいんだよお前ら、と正直バカにしてたけど、そんなものが今さら分かる。



どんなときでも、一緒にいたい。
ずっと自分だけの友達でいてほしい。
ただそれだけ。


ただそれだけなのに、鷹時は自分を置いて遠くに行ってしまうのだ。 



「・・・ずっと・・・一緒だったのに・・・っ」


鼻の奥がツンとしてきて・・・。


「お、おい!カ、カズ!?」

めったに泣かないのに、不覚にもこぼれてしまった涙が、
プリンを拭いていた鷹時の手の甲に落ちたらしく、鷹時はぎょっとして一成の顔を覗き込む。



ずっと一緒だった。そう、ホントにずっと一緒だったのだ。


保育園で出会ってから19歳の今に至るまで。
数多いクラス編成の中でも、何の腐れ縁か、偶然にもずっと同じクラスだった。
だからこそ、これからも側にいるのが当然であって・・・。



「おい・・・カズ、そんなことくらいで何泣いてんだよ・・・」

「うっせぇ!!見んなバカっ!」



一度外れた箍が再び締まることはなく、どんどん涙があふれてくる。


こんな失態はいくら親友でも、いや、親友だからこそ見られたくないものだ。





離れ離れになるのを知ったくらいでメソメソだなんてみっともない。
男同士の友情は、変なところでプライドが高かったりする。





「ほら、鼻かめ・・・」

ティッシュを2〜3枚引き抜いて、鷹時は一成の鼻ををつまんだ。



「やめろ!バカっ!もう出てけ!!」

「・・・ここ、俺んち」

「・・・・・・・・・・・・・・・っ!」

確かにここは鷹時の部屋。そういえば、遊びに来ていたんだった。



返す言葉がなくて、プイッと視線を逸らせば、
しょうがない奴だな〜、といつものように、頭を撫でられる。




いつもそうだ。これがいつもの仲直りの儀式(?)みたいなもので。

同い年なのに、鷹時がいつだって大人だ。それに甘えてきたのも事実で。



でも今回はかりは、置いてけぼりにされたみたいでものすごく不安なのだ。
鷹時だけが成長して独り立ちして、自分は取り残されたような気持ちになって。



頭を撫で続ける鷹時の手の心地良さは、
いつもは安心感を与えてくれるのに、今はただ、涙を誘う要因でしかない。





「・・・や、俺もさ、いつ言おうかって思ってたんだけどよ。なぁ、お前も、一緒に行かね?」

「・・・・・・・へ?」

不意打ちとも取れる言葉に一瞬何を聴かれたか分からなかった。



「まさかそんなに泣くなんてな・・・。まぁ、それに、今のうちに都会経験しとくのもありだぜ?」


確かにそうだけど。


「・・・でも、たぶん母ちゃんが許さねぇよ・・・。僕・・・信用されてねぇし・・・母子家庭だし・・・。」

きっと許してもらえない。





おそらく。





『あんたには無理よ。夢や理想と現実のギャップに絶望して、
それを社会や他人のせいにして、被害者面して加害者になるのがオチよ。
なんか変なグループとかに入ってさ、ニュースとかで息子の愚行を知るの。
母さんそんなの嫌だからね!』





そんなこという母が容易に想像できる。
こんなときは鷹時みたいに、器用で大人で考え方もしっかりしていて、
一人でもなんでもできるやつが羨ましくなる。



「だーから、オレが近くに居りゃおばさんも安心するんじゃねぇの?
オレだって、カズが居てくれりゃ楽しいし?」


一成の髪をくしゃりと掻き乱す。


「それに目に届く範囲にカズがいねーと、なんか心配っつーか・・・」

「お母んかよお前はっ!」



ペチン!と鷹時の手をはたけば、優しく笑いながら、
よかった、元気になったな、という返事が返ってきた。
そんなとこも大好きだと思う。



こいつが親友でよかったと心から思える。
だからやっぱり、離れることなんてできなくて。



「・・・説得すんの、手伝えよ・・・!」


「おうよ。でも、マジでいいのか?誘っといてなんだけど、ガキが一人で東京でやってくなんて、
並な覚悟じゃできねーと思うぜ?それでも一緒に行くか?」



「おう!それにタカが一緒にいるって思えたら踏ん張れるだろうし。」

「ルームシェアのが、おばさんも安心だろうし、
なによりも、オレがちゃ〜んと、カズの面倒見れるしな!」


「だからお前はお母んかっつの!!」



そんな会話が嬉しくて。



肩で思いっきりこずけば、わざとよろけてくれる。

「覚悟しとけよ!めいっぱい面倒かけてやる!」



「ああ、大丈夫大丈夫。カズの世話は俺の趣味だからね。」

一著前にウィンクなんてしてみせて。
そんな仕草が似合うからたまに悔しくなる。




「そうと決まればお前んち行こうぜ!おばさん説得しなきゃな!
ほれ、残りのプリンさっさと食え!それともオレが食っていいの?」


「あっ!駄目駄目!!忘れてた・・・・!」

大好きなプリンを食べ終わると、一成は鷹時の手を引いて、二人で部屋をあとにした。












「はあ!?あんた何言ってんの!あんたには無理よ!夢や理想と現実のギャップに絶望して、
それを社会や他人のせいにして、被害者面して加害者になるのがオチよ!
なんか変なグループとかに入っちゃってさ!
ニュースとかで息子の愚行を知るのなんて、母さんそんなの絶対嫌だからね!」


想像していた通りの言葉を吐かれて、不思議な母子の絆を感じてみたり。
でも、その後の鷹時の、オレが面倒見ますから、の一言で、あっさりOKが出た。



母曰く、「鷹ちゃんがいれば安心だわ〜」なんだそうだ。


自分の息子より、他人の息子のが信頼できるってのもどうよ!?
なんて思うが、鷹時が一成より信頼できるのは事実なので何も言えない。



「そうね。あんたも世間の荒波に揉まれた方がいいのかもね。
その代わり、中途半端なことで帰ってきたら、母さん、あんたをぶっとばすからね!」

「わ、分かってるって・・・。」


母子家庭で、父親役も兼ねてる一成の母は本当にパワフルだ。
いい加減なことで帰ってくれば、ホントにぶっとばされるだろう。

「勉強も頑張るよ・・・。」

母のパワーに圧倒されつつも、東京行きへの準備は始まった。



















「カ〜ズ。もう泣くなって・・・」

二人とも無事に大学を合格し、東京行きの飛行機はさっき離陸したばかり。



一成もめったに泣かないが、それに輪をかけたように「めったに」どころか
「絶対に」泣きそうもない強い母親。



そんな母親が、一成が搭乗口に入る直前、泣いているのが見えた。
母親の涙を見た瞬間、一成の涙も止まらないままで。
鷹時に肩を抱かれ、ひたすら落ち着くのを待った。



鷹時は東京に出ても、両親もそろってるし、兄弟だって2人いる。
一人欠けてもまだ「家族」だ。
でも、一成の母親は独りなのだ。



一人で自由で優雅に暮らすから安心して東京に行ってきな。




そう言って送り出してくたけど。
最後まで掛け合い漫才みたいな会話してたけど。
冷静に考えれば、経済的に、自由にも優雅にも暮らせるはずがない。



息子が不安なく旅立てるようにと最後まで強さを保っていたけど、
飛行機に乗り込んでいく息子の後ろ姿に、きっと耐え切れなかったのだろう。



それを思うと堪らなかった。



親友が離れていくのが嫌で、今まで育ててくれた母親を疎かにしたことが申し訳なくて。
独りにしてしまったのが申し訳なくて、後悔した。


雪の多いこの地で、独り雪かきをする母を思うと居た堪れなかった。



でもきっと、そんなことを理由に引き返そうものなら、母親は間違いなく一成をぶっとばすだろう。



いや、中途半歩にすらなってない状況だから、ぶっとばされるだけじゃ済まないだろうな。



「・・・大丈夫だよ。カズ・・・おばさんなら大丈夫だから・・・。な?」
一成を抱き留め、おちつくまでずっと髪を撫でてくれていた鷹時が、優しく諭す。



「今帰ったら、覚悟決めてお前を送り出したおばさんに失礼だろ。
それに、そんなことしたらお前、おばさんにぶっとばされるどころじゃ済まねぇぜ、きっと。」



同じようなことを考えていたことがおかしくて。
泣いてるときに笑ってしまったものだから、変な声になった。



「オレ、お袋に言ってきたからさ、お前の母ちゃん頼むって。な?だから安心しろな。
そんで、仕送りできるぐらい頑張ろうぜ!」



「・・・・・・・・・・・・・うん。」



もうそれ以上いわないでほしい。
それ以上言われると、余計に泣いてしまう。


そんな一成の気持ちを感じ取ったのか、鷹時は何も言わなくなった。
ただ、一成が落ち着くようにリズムよく背中を撫でている。



いつも思う。
なんで鷹時はこんなに自分の気持ちをわかってくれるのだろう。
こんな鷹時だから、ついつい甘えてしまうのだ。



心地のいい鷹時の胸は一成を眠りに誘う。
鷹時に抱かれている一成を、キャビンアテンダントや周りの乗客が、どう思っても構わない。




一成の意識は深く深く落ちていった。





END
母親の涙の下りは、イメージと違うので必要ないかと思いましたが、
カズが人目も憚らず、タカに甘えているシーンを連想させたかったので、そのままにしてみました。


(2009年)