ゆずれないモノ 10




入る日差しが眩しくて目を覚ました。



横には山野がいて、
どうやらずっと寝顔を見られていたようだ。


夢じゃなかった・・・。






「こ・・・紅ちゃん・・・」

思わず山野の名前を呼び、
その呼びかけに、自分でも照れてしまう。



「亜月くん、やっとお目覚めだね。腕・・・いいかな?」



その言葉に、山野が一晩中腕枕をしてくれていたことを知った。




「あ・・・腕・・・・わりぃ・・・・」

「謝らないで。・・・へへ・・・意外に嬉しい痛みだね、これ」


痛みと痺れのあるらしい腕を、
亜月の頭部から引き抜き

上半身を起こして、嬉しそうに腕をゆっくり振っている。




(すげぇ・・・)


亜月も成り行きで、女に腕枕をしてあげたことはあるが、
1時間も持たなかったし、
だいたい、特に冬は肩口が冷えて、ずっとするのは勘弁だと思う。


そこまでして難儀な腕枕をしてあげようとは思わなかった。



それを一晩中・・・・。


きゅん・・・と胸がときめく。


日に照らされる、初めての恋人を見上げた。




無精ひげは伸びて、髪も解いて、ばさばさだし、
とても10代には見えない。



それでも、これが、
亜月が今までで初めて好きになった人だと思うと、
さらに胸がキュンとした。





「・・・え・・・と、僕になにかついてる?」


あまりにじっと見つめすぎていたのか、
照れながら山野がポリポリを頭を掻く。

そのままその手は、長い髪を撫で、そして指で梳いた。



「・・・ね。紅ちゃんさ、なんで髪のばしてんの?」

何か意味があるのか、
ほんとにお洒落だと思って伸ばしているのか。

いろんなことをお話したくて、
とりあえず、山野に対して持っている疑問を口にしてみた。


相手のことを知ってこそ、恋人同士だ。
そんな些細な会話がなんだか嬉しい。



髪を伸ばしている理由を、山野が言いあぐねていると、
ふいにうるさくドアベルが鳴った。


ピポピポピポピンポ〜〜〜ン♪



それを聞いた山野は、
ベルの鳴らし方で相手が分かったようで、

「うわぁ・・・葉桜だ・・・・」

と項垂れ、
亜月に、今着てる山野のパジャマを着替えるよう促した。


「・・・・ハザクラ・・・?」


亜月の問いに、山野は溜め息を吐き、
妹だ、と答えた。











山野がカギを開けた音と同時に、
お兄ちゃ〜〜〜〜ん!と弾んだ声が響いた。





山野が足止めしているのか、
しばらく廊下でキャッキャッと山野に色んな報告をしている
嬉しそうな声が響いている。


少し脚にきていたが、
なんとか着替えを済ませると、亜月は急いでリビングに出た。





ソファに座り待っていると、
カチャ、と、リビングのドアを開ける音がして、
山野と、その腕にまとわりつく
ツインテールの女の子が入ってきた。



・・・ん?
女の子・・・・・・・?


以前、山野から聞いた、
ボディソープの香りにこだわる云々とか、美人だとか、
そのニュアンスから高校生くらいだと思っていたが、
入ってきたのは小学生くらいの女の子だった。




確かに、山野が美人だと言っていただけあって、
整った顔立ちの、切れ長な目を持つ美少女だ。


そのすっとした目の感じとか、兄妹なだけあって、
ぱっと見た感じの雰囲気は似ている気がする。









「おじゃましてます」

女の子の扱いは、年齢問わずに慣れているつもりなので、
亜月は条件反射で、キラキラオーラ全開で、
対女性モードでにっこり微笑んだ。

これが効かなかった女はいない。




だけど。


「誰?この人」

亜月に向けられたのは、敵対心丸出しの鋭い瞳。


うわぁ、睨んだ時の目は、山野にそっくりだ・・・そんな風に思っていたら、
山野がすかさず、その子の頭にげんこつを落とした。

「こら、葉桜。あいさつはどうした」


葉桜(はざくら)と呼ばれた山野の妹は、
涙目で兄を一見したが、すぐに小さな声で「こんにちは」と亜月に挨拶した。






山野葉桜。小学6年生。
歳の離れた、おませな山野の妹である。



「今日はクリスマスなのに、彼女のいない、
不っ細工なお兄ちゃんの為に、
わざわざ可愛いハザが来てあげたんだからねっ!!」


ありがとうは?と、恩着せがましく言っている妹に、
山野は、はいはいありがとうね〜と、棒読みのように答えていた。


山野に容赦なく不細工不細工と連発しているが、
それに反して小柄な身体からは、

お兄ちゃん大大大だ〜〜い好きオーラがだだ漏れである。


ご主人様にまとわりつく小型犬みたいだ。






そんな二人のやりとりを見ていたら、不意に葉桜に睨まれた。


女の子から睨まれるなんて新鮮。
そんな風に思った。


「ハザ、ご覧の通り、兄ちゃん今日はお客さんいるから。だからもう帰りなよ」


その言葉を聞いて葉桜は弾かれたように山野に抱きつき、
ヤダっと駄々をこねる。





お兄ちゃんとデートしてあげるんだもん!と、山野にずっとしがみつく。








なんでも好きなもの買ってやるからと、
今度埋め合わせするから、今日は帰ってくれ、という山野に
葉桜は不承不承といった感じで承諾した。




そして再び、亜月は彼女に睨まれる。

小学生なのに、なんて迫力だろう。


その目には一瞬、女が宿っていた気がした・・・けれど。





しかも、
なんだか見透かされている気がするのは、
気のせいだろうか・・・。


葉桜の視線にいたたまれなくなり、
亜月は小学生相手に自分から目を反らす。

はっぱり、山野に似ているだけあって、
この子の視線には弱いようだ。





ぴょんぴょん跳ねながら、
お兄ちゃん、抱っこしてよ、と、催促している。



いくら小学生でも、6年生ともなれば、ましてやおませな子なら、
普通、抱っこしろなんて言わないだろう、と思うものの、

背が高くて力持ちの兄が相手だと、
そういうものなのだろうか。


やれやれ、と溜め息を吐き、
山野はひょい、と慣れた様子で葉桜をお姫様だっこする。


きゃー、と、ハートマークがたくさん飛びそうな
黄色い声を上げて、山野の首にぎゅうっと抱きついた。


私、お兄ちゃんのお嫁さんになる〜〜〜と言わんばかりに、
山野を見るその眼はきらきらと輝いている。


(・・・・・ああ、いいなぁ・・・)

夕べ、自分もしてもらったくせに、亜月は嫉妬する。


「そのまま玄関まで運んで〜〜」
「はいはい、お嬢」


リビングを出て行こうとした瞬間、
葉桜は亜月を見て、ニヤリと笑う。

まるで勝ち誇ったような顔を見せた。



「・・・・っ!!」



子供相手にほんとに大人げないと思いつつも、

悔しかったら山野とセックスしてみろ!
できねぇだろ!!

と、心の中で叫んだ。



でも、さっき葉桜に浮かんだ「女」の顔。




ちょっとだけ、
山野と淫らに縺れ合う葉桜、という、
兄妹の禁断なイケナイ妄想をしてしまい、
思わず勃起しそうになって、慌てた。













「ごめんね、亜月くん。・・・恥ずかしながら、アレが妹」


照れながら話す山野に、
ここぞとばかりに山野の家族構成を訊ねた。



山野の家族構成は4人。

両親は、
父が俊春(としはる)、母が実冬(みふゆ)という名前らしい。

偶然、季節の名前を持っていることから、
春夏秋冬になるように、
それぞれの季節を表す名前を付けたいということで、

山野は秋を表す「紅葉」
妹は初夏を表す「葉桜」

と名付けられたそうだ。

どちらにも「葉」の字が入っているのは
たくさん茂るように、の両親の思いがあるらしい。



「本当は、『もみじ』って付けたかったみたい。
でも僕が男の子だったから、同じ漢字で『こうよう』にしたんだって」



ブランチの支度をしながら、山野が話してくれた。


亜月もカウンターに移り、
手伝っても邪魔になるだけなので、山野の仕事をじっと見るだけだ。




カウンターにずらりと並ぶ、珈琲豆を目で追った。


なんとなく分かってはいたが、
前から気になっていたので、誰がくるのかと訊ねると、
少し間を置いて、オタク仲間と答えた。





明後日の27日から、そのオタク仲間が数人、
ここへ泊りに来るそうだ。



何やら、29日から31日にかけて
お台場で大きな同人即売会のイベントがあるらしい。

そういえばテレビで見たことあるな、と、
亜月にとってはその程度の認識だ。


「ね、俺も」
「だめ」


即答された。




「・・・・・・・・・・・・・・・なんで?」



「君が来たって、どうせつまんないよ。むしろ不快になるかも」



亜月たちから、オタクというだけで
散々叩かれてきたトラウマからか、
山野は亜月がイベント会場へ来ることを頑なに拒んだ。


「・・・エロ同人誌売ってるし、エッチなフィギュアも売ってるし、
・・・・・・・なにせ、コスプレするから、亜月くんには見られたくない・・・はい、これ手伝って」

山野は亜月に、豆を挽くようにミルを渡した。


初めて任されたお手伝いが嬉しくて、
ただ豆を挽くだけなのに、
嬉々として木製のミルのハンドルをグルグルと回す。



コスプレかぁ・・・と、
漂ってきた珈琲のいい香を嗅ぎながら亜月は呟いた。



コスプレといえば、
オタク色のない亜月が抱くイメージは、
ナース服とかセーラー服とか、
AVに出てきそうなアダルトなイメージだ。




そういえば、たまにテレビとかに出てくる、アニメの格好したアレかと思い出し、
アレを山野がするのかと思えば、
はやりそれは見たくないような気もする。



そんなことを考えながら、
何か忘れていることに気付き、ミルを回す手が止まった。



「あっ・・・!!そういえば俺のバッグ・・・・!!!」





その時、再びドアベルが鳴った。




火を使っていた山野に代わり、
亜月が玄関へ向かった。





また妹だろうか。そう思いながらドアスコープを覗くと、


「え!?なんで!?」



そこに立っていた人物に、
亜月は驚いて鍵を開けた。


「よう、亜月」


なんとそこには、亜月のメッセンジャーバッグを高々に持ち上げた、
西川と坂下が立っていた。





山野に告げて、二人に上がってもらうと、
やっぱり初めてここに来た時の亜月と同様、
洗練された意外なインテリアに舌を巻いていた。


そして同様に、山野の格好を見て、理解不能と苦笑いする。


・・・なんで、そのセンスを服に活かせないのだろう。
そんな二人の心の声が聞こえてきた気がした。




二人分の豆を追加して、
亜月は一生懸命に豆を挽く。


お手伝いなんだ、と、にぱっと笑う亜月を見て、
坂下と西川はほっとしたような表情を見せた。




でも、なぜこの二人がここを知っていたのだろう。

以前、山野と亜月が入ってく現場を見られているので、
マンションの場所は分かっていたとしても、
8階にあるこの部屋を知っていたのが不思議だった。









「うまくいったみたいだな。よかった・・・」

話しかけてくる西川の言葉に、亜月は頬を染める。

なんでうまくいったのかが分かるんだ、と問う前に、
坂下が笑いながら、新たに山野が付けたと思われる、
首筋のキスマークをぐりぐりと押さえてきた。


・・・さっき、妹が亜月を睨みつけていた原因が分かった気がした。



最近のませた小学生なら、キスマークの理由くらい知っているのだろう。


思わず顔が赤くなる。




「でも、・・・なんでここが?・・・・っていうかその前に、
なんでお前らが持ってんだよ!!俺のバッグ!!」


むっとして訊ねると、
坂下と西川は、二人してふふふん、と笑った。



「いやいや亜月、お前、西川に感謝しろよ。こいつの提案なんだ」



詳細はこうだ。


夕べ、あまりにも亜月が不憫だったので、
一か八かの掛けではあったが、


バッグを隠して、連絡する手段、家に入る方法を失くしてしまえば、
亜月は歩いてでも行くとのできる、山野のマンションへ行くのではないか、

という西川の憶測から始まったようだ。


バッグを失くしてどうしようもない、と言えば、
いくら怒っている山野でも、
亜月を家に上げないわけにはいかないだろうと。


きっかえさえあれば、
なんとか二人が接近できるチャンスができるのではないか、
そんな風に考えてバッグを二人で隠し持っていたようだ。



その後、実は二人は亜月には見つからないように後をつけていたらしい。


もし、亜月がその場を動かなかったり、山野が亜月を拒んだりしたら、
その時は出て行って、また二人で慰めようという下心もあったようだ。


亜月はなんとなく、帰り間際に二人がこそこそ話していたのを思い出す。



このことを企んでいたのか。



でもそのお陰で、山野とこうして、
ちゃんと恋人になれたのだ。


恋人・・・・そう思ったとたん、かぁ・・・・っと頬が染まり、
亜月は両手で顔を隠す。




それを見て、二人がほわん・・・となっていたところに、



「亜月」


山野が亜月を呼んだ。


その呼びかけに、坂下と西川が驚いた顔をする。


「紅ちゃん、何?」

さらに、二人がピシッと固まったような気がした。


「豆、挽き終わったら持ってきて」

「おう」

まるで、しっぽを振りながらご主人様のもとへいく犬のようだと、
さっき、亜月が葉桜に思った事と同じ事を、
坂下と西川も思ってしまったようだ。




ゴポゴポという、コーヒーのドリップが終わったことを告げる音がして、
鹿児島県から取り寄せたという、
お客様用の、溶岩焼のコーヒーカップに
淹れたてのコーヒーを注ぎ、茶菓子をセットして二人に出した。

この溶岩焼きの器は、
鹿児島の桜島の噴火で降った灰を、さらに細かく砕いて加工し、
新たに練ったもので作っているらしく、不思議と飲み物が美味しくなったように感じる。

二人とも美味しいと言って飲んでくれた。




というか、
こころなしか、山野の西川を見る目が鋭い気がするが・・・・。



この二人の前で、呼び捨てで亜月を呼んだ時、
少し声が低かった気がする。


山野なりのけん制なのだろう。



二人には悪いが、亜月にはそれがちょっと嬉しかったりする。




それを感じとったのか、
西川はコーヒーを飲み終えると、帰りたそうにしていたが、
坂下が、溶岩焼きに興味をもったらしく、その話を振られると、
山野は凄く嬉しそうに説明していた。












2人が帰ったあと、
バッグも見つかったこともあって、デートをしたいと亜月が提案したが、
それは却下された。




理由は・・・。







「ねー、紅ちゃん」
「ちょっと、今、話しかけないで・・・・」

ソファにくっついて座りながら、呼びかける。



山野が一生懸命見ている方へ、亜月も視線を向けた。


テレビ画面に、やたらリアルな外国人に、
気持ち悪いバケモノが襲いかかっている。

それを、山野が操作している、主人公らしき男が棒でそのバケモノを殴打する。



「うわぁ・・・・」


無駄に、ぶしゃぁっ、と飛び散る血の演出に、
亜月は眉をひそめる。





そう、今日は山野が楽しみにしていたゲームの発売日なのだ。


恋人をほっといてゲームするか普通!?

とも思うが、、
自分はフィギュアやゲームの次でもいいと言った手前、
文句は言えなかった。




せめて、山野にくっついて体温を感じていたい。
山野にもたれかかりながら、亜月はずっと
山野の操作するゲーム画面を一緒に見つめていた。







「おえ・・・・・」


・・・・・・酔った。





「ちょっとリアルすぎるね。画面の切り替わり方が今までと違うから、
僕もちょっと酔っちゃった」



いつもは何時間も続けてゲームをしているらしき山野も、
流石に今回のものは1時間で具合が悪くなったらしい。




そのままソファに横になり、伸びをする山野の上にのしかかる。


「重い・・・・」

「重くしてんの」



顔が近づき、どちらからともなくキスをする。



「ねー・・・買い物行こう」

誘う亜月に、出不精だと言っていた山野は案の定渋った。



実はゲームが発売と聞いていたから、
出かけられるのだと期待していたら、

今や世の中、ダウンロードという方法でゲームが手に入るらしい。



「・・・ねぇ、紅ちゃんはさ、オタクはゆずれないんだろ?」

その問いかけに、やっと山野は顔を上げた。


「紅ちゃんだけが、ゆずれないモノを主張するのはおかしいと思わね?」

「・・・・・・うん、確かにそうだね」


上体を起こした山野に、甘えるように抱きついてみる。
腰に手をまわしてくれた。




「・・・・で?亜月くんは、僕に何を望んでるの?」

「もっとお洒落しろよ」


「・・・・・・」


明らかに嫌な顔をされた。


「どうせ僕なんかがお洒落しても、どうにもなんないよ。
葉桜に言わせると、僕はめいいっぱい手を加えて、やっと人並みなんだって」


それ考えるとめんどくさ〜〜い、と呟いて、またソファに横になった。


葉桜の言葉はちょっと言い過ぎのような気もするが。





「確かに、紅ちゃんが手を加えても、俺みたいにはなんないけどさ」

「・・・・・・・」



失言を気にせず亜月は話を続ける。


せめて、着ているものはなんとかしてほしいと告げると、
僕のどこがおかしいの?と驚きの言葉が返ってきた。



自分のファッションになんの疑問も持っていないなんて
ありあえない。



「よし!うん、決めた!俺のゆずれないものは、やっぱりお洒落だ!」


亜月は、山野大改造を心に誓った。









「キャラTはダメ!」
「そんなヨレヨレは着ない!」
「だから何でシャツをボトムん中に入れるの!?」
「っていうか、そのネルシャツは却下!!」


亜月のダメ出しが続く。


「も〜〜いいじゃない・・・着るの僕なんだし」
「一緒に歩く俺が嫌なの!」


そう言って、今山野が所持している服を見渡して、
亜月がまだ「マシ」だと思うものをチョイスして山野に着せる。



黒と白の無地のTシャツをレイヤードで合わせ、
そしてその上から、比較的無難な青のチェックのシャツを羽織らせる。

それでもお洒落な亜月から見たらかなりビミョーーーではあるが、
キャラTに、あのありえないネルシャツを合わせられるよりは
遥かにいい。

というか、なんでこんなにチェックばかりあるのだろ?

理由を聞いたら、チェックは僕的に神だ、という
訳の分からない返事が返ってきた。



神つながりで、髪の話をしたら、
つかさずに絶対に切らないと言われてしまった。
















そんな山野を連れて、亜月は街に出た。




街に出れば、亜月はみんなの注目の的だ。


だが、今日は別意味でも注目の的になっている。


見栄えのいい亜月の横に、
胡散臭そうな場違いな男が連れ立って歩いているのは
一種異様な光景に映るようだ。










まずは、高校生の頃から使っているという、
ダサイ眼鏡からなんとかしようと、眼鏡店へ入る。


最近は安くてお洒落なモノ多い。


スクエアタイプのブルーのプラスチックフレームが
山野には凄く似合ったので、
テンプル部分に装飾が施してあるお洒落なものを選んだ。


出来上がりまでには1週間程かかるとのことで、
山野は郵送してもらうことにしたようだ。




眼鏡は比較的あっさり決まったが、
問題はファッションだ。


亜月の行きつけのショップへ赴き、
中に入ると、いらっしゃませと、独特のトーンで女性店員がにこやかに近寄ってくる。




お得意様の亜月に満面の笑みを浮かべていたが、
山野を見たとたんにひきつったような顔を見せた。

だが、そこはやはり接客業。


にっこりと笑ってごゆっくりどうぞ〜と会釈した。





亜月はざっと店内を見回す。


先程の眼鏡でも思ったが、山野はどうやらブルー系など、
暖色系より、寒色系が似合うようだ。

明るい色は、差し色で少し加えることで、
ぐっと引き締まるだろう。



いつもよれっとした、ダボついたTシャツを着ているので、
せっかくの身体のラインがいつも台無しだ。


山野を少しでも見栄え良くするには、
まず、唯一の取柄である、そのスタイルの良さを
存分にアピールする必要がある。





身体のラインを綺麗に見せてくれるカットソーを数着、
それに合わせやすい、着回しの効くボトムを2本選び、
とりあえず着てみろと、試着室へと押し込んだ。






「あれ〜〜〜亜月くん!?」


ちょうどその時、聞きなれた女の声で名前を呼ばれた。


知恵だった。

その他に数人の男女も一緒にいた。


亜月抜きのクリスマスと思っていただけに、
ここで会えたことに女子たちがキャアキャア騒いでいる。


店の妨害になると思い、亜月はいったん外に出た。




どこかに行こうと誘ってくる知恵たちに、
亜月は友達を待たせているかと断ったが、
その子も連れてくればいいとしつこく迫られる。


まさか連れが山野とも言えないし、
ましてや、友達じゃなくて恋人になったんだ、とは口が裂けても言えない。


そうこうしていると亜月の携帯が鳴った。
この状況が見えたらしく、山野からのメールだった。



『なんだか大変そうだね。僕のことはいいから、お友達と行っといで(^v^)v』

行くなと言って欲しかったのに・・・と、
特にこの顔文字の(^v^)vにイラッとした。

でも確かにこの状況じゃ、彼女たちの誘いを断るのは難しい。


せめてデコメ絵文字使えよ・・・とつっこみながら、
断りにくい雰囲気に負けて、亜月は『ゴメン』というメッセージに
猫が土下座しているアニメーションを3つ付けて、山野に返信し、
知恵たちと歩き出した。



しばらく歩き続け、亜月は溜め息をつく。


せっかく、恋人になって初のクリスマスで、
初デートを楽しんでいたのに。


低いテンションで歩く亜月とは裏腹に、
他の人たちはやたらテンションが高い。


時計を見るともうすぐで5時だ。



本当なら、山野とディナーをとるつもりだったのに。

昨夜の熱くて激しい交わりを反芻すると、
下半身にずくんと疼きが走る。


そうだ、夕べ、ちゃんと恋人になったんだ。

今日はその恋人と、初デートの最中だったのに。





亜月はピタッと脚を止める。


「ごめん、やっぱ俺、今日ダメだわ」



そう告げると亜月は、踵を返し、急いでさっきのショップに戻った。



残された人たちは、
案の定、あの亜月がごめんっと謝ったことに衝撃を受け、
皆その場で固まっていたようだが・・・。







亜月がショップに着くと、すでに山野の姿は無かった。



「あら、三条様。先程のお友達でしたら、
全てお似合いでしたので、大変気に入られた様子で、全てご購入なさいましたよ」


最初は山野に怪訝な顔をしてた女性店員も、
あれだけの服を一気に購入した山野に気を良くしてご満悦だ。
現金なものだと思う。

まさか全部買うとは思わなかった。
たぶん金額は10万円を超えるだろう。

それを普通に購入できるって、山野はやっぱり凄いと思った。




「いつ帰った!?」
「つい先程・・・走れば、きっとまだ間に合いますよ」


山野が歩いて行った方角を聞くと、
亜月は走りだした。









すぐに山野は見つかった。

背の高い、長髪の猫背なんて山野くらいで十分だ。



ショップの紙袋を3つ下げて、ポケットに手をつっこんで
歩く後ろ姿は、やはりがに股でかっこ悪い。

シルエットだけで、山野と分かる。


「紅ちゃん!」



呼びとめれば、驚いた様子で山野が振り返る。



「亜月くん、お友達はよかったの?」



息を切らせるなんて、何年振りだろう。


ましてや、誰かに追いつく為に走ったことなんてない。




「どっかでご飯、食べてく?」



しゃべる度に、白い息がふわっと流れていく。



周囲を見渡せば、
手をつないだカップルだらけだ。


いいなぁ・・・と、凄く羨ましいと思った。

亜月も山野と手が繋いでみたいが、
公衆の場でそれも出来ないもどかしさに、
少しだけ寂しくなる。




「・・・いや、やっぱ紅ちゃん家で食べよ。俺、唐揚げがいいな」


レストランやダイニングバーではイチャイチャできない。
ましてや、二人っきりにもなれない。



「Bar YAMANOで、
紅ちゃん手作りのディナーとお酒とシャレこもうよ!マスター、お願いね」

そう言ってウインクをしてみせると、山野もふわりと笑い、
かしこまりました、と大仰に腰を折ってみせた。


そして、乾杯用のスパークリングワインとビール、
晩ご飯の材料とケーキを買って、二人で山野のマンションへと帰った。







11へ
この回で終わるかとおもいきや、もう少し続きそうです(^^ゞ

実は、前回で、Hシーンの後に締めくくりのシーンを入れて、
いったん完結させようかとも思ったのですが、

妹のこととか、亜月のゆずれないと思っている部分とか、
せっかく山野と恋人になれて浮かれいる感じとか、そんな二人の日常の様子とか、
まだまだい書き足りない部分がたくさんあったので、もう少し続きます(*^_^*)

だらだらした文章ですが、気長にお付き合いいただけると嬉しいです<m(__)m>



2013/02/12