ゆずれないモノ 4

なかなか更新できず、クリスマスシーズンが過ぎてしまいましたが、ご了承くださいませ<m(__)m>



ギシギシと軋む身体に違和感を覚えて目を覚ます。


いつもと違うシーツの感触に、ここが山野マンションだということを思い出した。

腕を横に伸ばしても、山野はすでにいない。




女とする時のように、体裁とか気遣いとか、そんなものは全く無用で、
ただ快楽をむさぼるだけの交わりは、
まるで野獣同士の交尾みたいだった。

さんざん抱き合ったというのに、思い出せばまた身体の芯が火照ってくる。



時計を見れば、午前10時がすこしまわったところだ。
ふと、バターのいい香りが鼻をかすめる。


案の定、なかなか足に力が入らないが、
それを叱咤してなんとか立ちあがり、寝室を出ると、
キッチンでは山野が遅めの朝食の支度をしている最中だった。



「あ、おはよう三条くん。君、朝ごはん・・・食べれる人?」

昨夜は何度も下の名前で呼んでくれたのに、
またいつもの名字での呼びかけに戻っている。

でもそれを咎めるのもなんだか女々しい気がして、
その不満を呑みこむ。

「何作ってんの?」

「フレンチトースト」


「へぇ・・・すげぇな・・・じゃあ、もらおっかな」

周囲の人たちには何故か、
大好きなはずの甘いものが、苦手ということで広まっているが、
訂正するのも面倒なのでそのままにしている。

そういう体裁を気にしなくていいのも気が楽でいい。


そういえば、夕べもつまみも作っていたな、と、
手際良く支度を進めていく山野を、
少しだけ感心しながら見つめた。


おぼつかない足取りで顔を洗ってから席につくと、
淹れたてのコーヒーをコースターの上に置いてくれた。

テーブルの真ん中に置かれた白い容器には、
コロンとした丸っこい形のブラウンシュガー達が可愛らしく鎮座し、
そこに手の形をしたシュガートングが添えられている。



ステッチの効かせてある、ダークブラウンの皮のランチョンマットの上には、
サラダとフレンチトースト、コーンスープが並べられ、
洒落た瓶に入ったクルトンとパセリを山野が散らしていく。


どれも、カフェのように真っ白な陶器で統一されていて、
こんな小洒落たことをしているのが山野だと思うと
どうにもミスマッチで笑えてくるが、
やっぱりそのセンスをファッションに生かせよ、
と、内心つっこんでしまう。


「あ、うまい!」
「そう?よかった」


コーヒーもトーストも思っていた以上に美味しくて、
素直に感想を口にすると、
いつも亜月の前では仏頂面の山野が、
少しだけ、ふわりと笑った。


コーヒー豆にはこだわっているらしい。
特に豆を褒めると、今までに見たことの無いくらい顔が綻(ほころ)ぶ程だ。


キッチンカウンターに並べられた数種類のコーヒー豆やハーブティ、
色んな種類の砂糖がお洒落なガラス瓶に収まり、
いつでも誰かを「おもてなし」出来るようにスタンバイされているようだ。


ここにはきっと、山野と同じような趣味を持つ連中が集まるんだろうなと
容易に想像ができた。


そんな、常連であろう見ず知らずのオタク連中に、
亜月は意識下で嫉妬を覚えた。






その対抗心からか、
朝食を食べ終わると、亜月は夕べも散々交わったというのに、
その常連たちが、絶対に山野とはしないであろうセックスをせがんだ。







「あっ・・・ああっ・・・!」

抱き合っている最中に亜月の携帯に、
メールの着信を知らせるメロディが聞こえた気がした。


(ああ、そういえば・・・)


半開きの唇からは、甘い喘ぎと唾液が漏れ、
快楽のために焦点の合ってない瞳は、
山野の肩に抱えあげられた自らの脚を漠然と映している。




「んっ、あっ・・・あぁん・・・」


抜き差しされる山野の熱い剛直。



(今夜、合コンするって、メールがきてたっけ・・・)



山野に突き上げられながら、亜月はそんなことを思い出していた。


















「ねぇ〜亜月くぅん、
今年のクリスマスぅ〜、どう〜するの〜〜?」


あれから数日経ち、クリスマスも間近に迫って来た頃、
無い胸を擦りつけるように、腕を組んでくるのは、
一度寝たこともある知恵だ。


間延びした馬鹿丸出しのしゃべり方が
今までは全く気にならなかったのに
酷く耳触りでイライラしてくる。


「あ?少なくともお前とはやんねーよ」
「あんっ」


腕を振りほどかれた知恵が、わざとらしく可愛い声で抗議するが、
それでもめげずに、他の女たちと共に亜月を取り囲み、
そして、その女たちを追うようにして男たちも群がる。

あっという間に亜月の周囲に人が集まり、いつもの光景が広がるが、
最近、この状態に酷くストレスを感じてならない。



「だって〜このところ、亜月くん全然つかまらないんだも〜〜ん。
つまんなぁい〜」

「ねぇ〜〜〜」

ここ最近、コンパにすら顔を出さない亜月に、女たちが一斉に抗議する。

そりゃそうだろう。
このところ亜月は、山野とばかり身体を重ねている。


山野とセフレの契約を取り交わしてからも、
コンパにも参加して、女ともそれなりセックスをしていたが、

それこそそれは最初の頃だけで、最近は他の連中そっちのけで、
山野とのセックスに溺れているのが現状だ。



だけど、クリスマスが近づいてくると、
さすがに女たちも周囲の男連中も黙ってはいないようだ。



女たちは是が非でもクリスマスを亜月と過ごそうと、
気を引くためにひっきりなしに構内で亜月に声をかけてくるが、
そんな女たちを軽くあしらう亜月を、
西川と坂下だけが不思議そうに見つめていた。



いつもの亜月は女を選び放題で、
結局、その時の一番最高の女を選んでは、豪華なクリスマスを堪能するのに、
今年はなぜか、女たちを全く見ていない。



亜月の視線が、ついつい注がれるのはただ一人だ。








「ちょうどクリスマスにさ、サイレントタウン4が発売なんだよね!楽しみだなぁ」

「クリスマスにホラゲ三昧ですか!それもアリですね〜」


ふと、そんな会話が聞こえてきて、
少し離れた場所でオタク仲間と盛り上がっている山野の姿が目に入った。


亜月にはまったく未知の世界の話で盛り上がる山野は、
満面の笑みで仲間としゃべっている。


「やぁだぁ〜〜なにアレ、きもぉい!」
「アニメとゲームとかの話ししかしないのよ〜あいつら」



オタクトーク炸裂の山野たちに向かって、
知恵たちがわざと聞こえるように、あからさまに不快感を露わにする。


「やめとけ・・・ほっといてやれよ」

いつもなら率先して、山野たちを罵る亜月の意外な一言に、
そこにいた誰もが一斉に驚いた。


「どうしたの?三条くんがあいつらを庇うなんて」
名前も覚えていない男が不思議そうに呟く。



「・・・別に庇ったわけじゃねぇよ・・・それよりさ」

山野たちから話題を反らす。

山野を庇ったのは、例のデータの件があるからだが、
山野を馬鹿にした態度に、なぜか腹が立ってしょうがなかったのも事実だ。



ちらりと山野に視線を注ぐ。



知恵の言葉も聞こえていただろうに、
全く気にせずに楽しそうにおしゃべりしている。


くるくると表情が変わり、大口を開けて笑い、
そこには自分の知らない山野がいる。


亜月といるときは、
正直、何を考えているのか分からないくらい表情が読めないのに。


胸に何とも言えないモヤモヤとしたものが広がり、途端につまらなくなる。







その後も広い構内で山野とすれ違うが、
山野は少しも亜月と目を合わせようとはしない。



確かに、山野と関わっているのを知られたくなくて、
構内ではなるべく接触しないようにしようと
言い出したのは亜月だ。



確かにそうだけど。
でも、接触はしないけど、見るなとは言ってない。






あまりにも自分の存在を無視されているようで面白くない。
亜月だけが、山野を目で追う。



自分は女をやり捨てて、次の日には見向きもしないくせに、
自分が山野の眼中には無いのだと思うと無性に腹が立つ。



(んだよ、童貞だったくせに!)


その山野の童貞を食ったのは自分だ。


他の連中の知らない山野を、亜月だけが知っているし、
山野だって、亜月の身体しか知らない。



無意識に優越感を抱くが、
ただ相手の山野が、まったくのブサメンなのが残念なところだ。



ひとまず、自分を避ける山野に一言何か言ってやらないと気が済まない。


亜月はいつものように、集団から抜け出し、
山野が一人になるのを待った。













「うわっ!?」

「しぃっ!!」


いつもの仲間と別行動をとっていた山野を発見し、
亜月は誰も使っていない教室へと引きずり込んだ。


「さ、三条くん・・・?」
やっぱり名字で呼ばれるとイラッとする。


「三条くん、どうした・・・んっ・・・」


とにかく黙らせたくて、亜月が山野の唇をキスで塞げば、
すぐに亜月の教えたキスが返ってくる。


相変わらず器用だ。
回を重ねるごとに上手くなっていっていく。


「・・・お前さ、なんで俺避けんの・・・?」

「・・・なんでって・・・学校ではお互い接触しないって言ったの、君だよ?」
「・・・言ったけど・・・」


クールなトーンでさらりと言われて、
自分だけががっついているようで惨めになる。








「・・・今日、おまえんち行くから」

「・・・そう?分かったよ。じゃ、今夜は何食べる?」

「・・・からあげ・・・」

山野の作る料理の中でも一番好きな、からあげをリクエストする。
何を食べても美味いが、特に山野特性の唐揚げは、亜月の大のお気入りだ。

「・・・了解」


一言で簡潔に答えると、山野は亜月の腕からするりと離れて行ってしまった。


あまりにもあっさりとした素っ気ない態度に、
ぐっと歯をかみしめ、亜月は山野が見えなくなるまでその姿を見送っていた。






ぽつんと残された亜月の胸に、
今までに感じたことのないうら悲しさが過(よぎ)る。



「なにしてんの?」
「に、西川!?」


いつの間にかそこに立っていた、西川と坂下に酷く驚いた。


「なぁ、亜月、お前さ、さっきのアレさ、なんなの?」



突然、西川にそう言われて、
今のキスを見られていたのだろうかと冷やりとする。


「さっき庇ったろ、山野のこと。それにこのところ、やたら山野ばっか見てるだろ」


坂下から指摘されて嫌な汗をかく。



「あ、ああ、あいつ、いつもすげぇカッコしてんじゃん?ついつい目がいくんだよ」


「あー・・・まぁなぁ・・・ありゃないよねぇ・・・」


今日は、青い髪のツインテールの何かのキャラTに、
ダサい型のジーンズを合わせている。

なぜその格好で外に出られるのか本当に不思議でならない。
亜月なら、部屋着ですら着るのはゴメンだ。


もし、山野が自分の恋人だったら、そんな恰好では一緒に歩きたくないし、
人にも紹介したくないだろう。

第一、恋人だったら絶対にあんな格好はさせないのに。



亜月は、山野の態度や格好に不満ばかり募らせる。


・・・なんで山野は、自分を見ないのか。


今までの散々な自分の仕打ちを棚に上げて、
かつ、セフレという身勝手な要求までしておいて、
その上、山野が亜月の存在を、
構内では等閑(なおざり)にしていることに腹を立てる。

とことん身勝手だ。
そんなだから、山野からちゃんと向き合ってもらえないのに。





「でも、こないださ、亜月んちに行こうとしたら、
お前が山野と歩いていること見たよ。どっかのマンションに入っていったけど、
あれって、山野のマンション・・・?」


坂下の言葉に我に返る。


「亜月さ、この前から変だよ。なにかあった?
なんかさ、山野の卑怯なやり口に、弱みとか握られてんじゃないのか?」


半ば当たっているだけにギクリとするが、
本当のことを言えるはずもなく、亜月はとぼけてみせる。


「ゆすられて、金とか撒き上げられてんじゃないだろうな!?」

美人が台無しになってしまうくらい、
ものすごい剣幕で問い詰める坂下に押されるものの、
逆に、さっきのキスを見られた訳ではないのだと安心した。


「まぁ、なんつーか・・・友達ごっこ・・・?
ちょっと声かけてやったらさ、なんかあいつ、真に受けてさぁ」


「あー・・・たいへんだね、そりゃ・・・」

以前、孤立しているオタクに、ちょっと気を使って話を振ってあげたら、
どうでもいいマニアックな話を
延々聞かされたことのある坂下は、気の毒そうな顔をした。



「で?最近合コンに来ないのは?」


「ああ、オタクからかってる方が面白いんだよ。飽きたら、ちゃんとまた参加するって」


納得しているのかいないのか、腑に落ちないといった表情で
お前は相変わらず酷い男だと、西川が呟いた。
















「ん・・・あっあっああっ」

夜、亜月は山野のマンションに押しかけ、
いつものように山野を求めた。


「や・・・まのっ・・・そこっ・・・もっと・・・!」
「なに・・・・?ここ・・・?」
「ひあっ・・・あんっ」


山野が動く度に、じわぁっと痺れるような快感が全身を駆け巡る。


熱い杭が、とろけた襞を掻き分けて、奥深くまで侵入しては出て行く。



張り出したカリに前立腺を集中的に擦りあげられれば、
高い声を上げながら、腰が淫らに揺れ動き、快感に身悶える。


「んあっ、あっあっ」

「亜月、すごいよ・・・ぐっちゃぐちゃになってる」

「いやぁ・・・!」



山野は、とろけた亜月の襞の感触を楽しんでいるようだ。

入り口の粘膜と男根の間に指を滑らせ、そしてそのまま
指ごと亜月の中へと挿入してきた。



ただでさえ大きいのに、さらに指が加われば、
ぴりっとした痛みを覚えるが、
同時に癖になりそうな快感を連れてくる。




痛いけれど、気持ちいい。


「い・・・痛ぅ・・・あっ、あっ、ああ・・・いやっ」
「嘘つき・・・嫌な割に締め付けすぎでしょ。痛いの好きなんだね、このどMが」

「あうっ!」

空いている方の手で、尻をぴしゃりと叩かれる。

「ほら、また締まった」


普段、亜月に対しては寡黙な山野に、言葉で辱められる。


亜月だけに向けられるイヤラシイ言葉に、イヤラシイ瞳。


でもそれは、セックスの時だけだ。





甘い甘いピロートークもあったもんじゃなく、
行為が終わると、最中のエロさとはうって変わって
山野は淡々と後処理に勤しむ。



何度もこうして身体を重ねているけれど、
終わったあとはいつもこうで、
身体は拭いて綺麗にしてくれるけど、
会話は全く無く、そっけなさすぎて拍子抜けするほどだ。



別に恋人ではないのだから
まったりとした甘い時間が欲しいわけではないけれど、
こうもギャップがあると、
やっぱりセックスだけの関係なのだと虚しくなる。


実際、気持よければそれでいいし、
暇つぶしでセックスができれば十分だった。

その暇つぶしで、ただしがみついて、喘いて、
オルガズムを得られれば、それで満足だった


満足だったはずなのに、
身体が満足すればするほど、不安と不満だけがどんどん募ってくる。


山野が亜月を見てはいない。


亜月は皆の注目の的なのに。


追われることが当然で、
自分が誰かを追うようなことが今までなかったから、
この状況がどうしても腑に落ちない。




自分を見ない山野に、亜月は焦れる。






焦れて焦れて、
追いかけてほしくて、

いつもの自分を見失い、
そしてつい、言ってしまったのだ。






「・・・なぁ、やっぱさ・・・セフレ、・・・やめようぜ?」

「・・・え?」

山野が、手を止める。





「ん〜〜やっぱさ、俺もお前も、別にホモじゃねぇし・・・・」


亜月としては、ただ単に、山野を驚かせたかっただけなのだ。

押してダメだから、引いてみただけなのに。




「うん、いいよ」



「・・・え?」


なのに、驚いたのは亜月の方だった。


「えっ?・・・いいよって・・・もう、俺とセックス出来ないんだぜ!?」

「うん・・・まぁ、しょうがないんじゃない?もともと、君が飽きるまでだろうと思ってたし」

なんてことないようにさらりと答え、
止めていた手を再開し、亜月の身体を拭き始めた。



嘘・・・。


ちょっと待て、予定と違う。


俺は、こんな結果を望んではいない。


どうしてそういう返事なんだ。



衝撃を受けて顔面蒼白なっている亜月に気づきもせず、
山野はいつものように飄々としていて、
最後の後処理で、亜月の足の指を一本一本丁寧に拭いていく。



「・・・で?今日は帰るの?泊ってくの?」


それによっては準備するものが変わってくるから、と、
いつもの読めない表情で淡々と聞かれたけれど、
山野の言葉の意味を理解するのに少し時間がかかってしまった。


「・・・・・・帰る・・・・」



やっと、絞り出すようにそれだけ告げると、
青ざめた亜月の顔にやっと山野が気づいた。



「え?ちょ・・・三条くん、具合が悪いの?僕、無理させた・・・?大丈夫かい?」


具合の悪そうな亜月を心配する山野を見て、無性に腹が立った。
セフレ解消の申し出には、なんてことない態度だったのに。



「やっぱり、今日までは泊っていった方が・・・明日ゆっくり帰っ」
「帰るっつってんだろ!!!」


「三条くん・・・!?」


思わず怒鳴り、
心配して顔を覗き込む山野と突き飛ばすと、衣服を身に纏い、
がくがくと崩れ落ちそうな脚を叱咤しながら部屋を飛び出した。


「今日まで」という言葉と、
淡々とした山野の言い方が酷く胸に突き刺さった。

「今日まで」ということは、次はもうないということだ。



違う。
こういう結果を望んでいた訳ではないのに。



ただ、セフレをやめたいと告げた時、山野に動揺してほしかったのだ。

嫌だ、と、引き留めて欲しかった。


だけど、この結果、
山野は、亜月になんの興味も持っていないことを
思い知らされただけだった。






「くそっ・・・ちくしょう・・・・!」

必死で運んでいた脚がガクりと崩れ落ちる。


(・・・くそっ・・・何で・・・)

街灯の下に蹲り、涙が出そうになるのをぐっと堪える。



あんなオタク童貞ごときに振り回されるなんて。



納得できない。

ぎゅうっと、胸が締め付けられる。

目頭を手で押さえ、
こみ上げてくるものを必死で抑える。





追いすがって欲しくて、
わざと相手を試すような真似は、一番嫌いだ。

だけど、山野との付き合いは、
亜月を自分が一番嫌いなタイプへと変えてしまったようだ。


女々しい自分が嫌になる。









ふと、亜月の携帯が鳴りだした。


「・・・坂下・・・・?」



『亜月、お前、ほんとに今日の合コン来ないの?今からでも出てくれば?
みんな待ってるよ』

機械を通してさらに低い坂下の声が、亜月を落ち着かせてくれる。


なにもかも億劫だったけれど、このまま家に帰るのも癪だった。

今は一人になりたくなくて、
羽目を外して、なにもかも忘れたい気分になり、
今から行くと返事をすると、みんなの集まっているダイニングバーへと向かった。








「・・・亜月、何かあった?」

からあげを頬張る亜月に坂下が声をかける。

結局食べそびれてしまった山野の唐揚げと比較して、
また暗い気持になっていたが、その声で我に返り、
大丈夫だと言って気丈に振る舞った。




今日は何がなんでも女とセックスをしないと気がすまない。

参加している女を物色していると、何度か見たことがあるくらいで、
名前は知らない女が目に留まった。


胸が大きくて、すこし童顔でかわいらしい女。
まるで、誰かさんの好みのタイプぴったりだ。


腹いせにその女を抱こうとホテルで部屋をとったが、
どうしたものか、亜月のそれは、全く使い物にならなかった。









「・・・ごめん・・・」



「・・・えっ?えっと・・・まぁ・・・そんな日もあるんじゃない?
今日亜月くん、体調悪そうだったし・・・」

亜月が失敗したことより、
謝ったことに対して彼女は心底驚いたようだった。


背を向けて丸くなった背中を、彼女は気の毒そうに見つめ、
ここは私が払うからと、金を置いて部屋を先に出て行ったが、
それが余計に亜月を惨めにさせた。




こんな時でも、浮かぶのは山野の顔だ。


(くそっ・・・胸糞悪い・・・・!)


あの不細工な顔が脳裏に焼き付いている。

不細工なくせに、一丁前に言葉攻めなんかして、
一丁前に絶妙に腰なんか振って、
一丁前に亜月をイかせて。

山野とのセックス思い出せば、
さっきまで何の反応も見せなかった亜月自身が、ピンと起き上がる。




「くそっ・・・生意気なんだよっ・・・山野のくせに・・・!」



誰が見ているわけでもないのに、
シーツの中に潜り込み、何かから自分を隠してしまいたかった。

スッと一筋、涙がこぼれ、敷布に吸い込まれていく。




「・・・やまの・・・・」

そ・・・と、滾る自分自身に手を添える。
数時間前まではこれを、山野に愛撫されていたのに。





「あっ・・・ん・・・やまのっ・・・」

彼の手の動きを思い出し、真似てみるがあの手には敵わない。




くちゅくちゅと音をたて、
張り詰めたモノに指を絡め扱き上げる。


だけど、前だけの刺激ではすでに物足りなくて、
いつも山野の剛直が出入りしていた部分にそっと触れた。

さっきまで山野を受け入れていたそこは
とても柔らかくて、
自分でも驚くほど、すんなりと指を飲みこんでしまう。



「あ・・・山野・・・」


亜月は自分で注挿を繰り返し、自らを慰めはじめた。


一人で、後ろをいじるのは、初めてだ。


「あっ・・・あっ・・・」


後ろへ挿入されることを覚えると、
前だけの刺激では物足りない。


山野がよくやるように、指を広げたりしながら襞を掻き回すが、それでは足りない。



指を増やしても、それだけではどうしても足りない。







何かを思い出したように、もぞもぞとシーツから出ると、
亜月は室内に備えてある、大人の玩具の自販機を探した。






どぎついピンクの男根を模した、一番大きなバイブを購入すると、
それに備品のコンドームを被せ、なんら躊躇することなく自らの秘部に挿入した。




自分が血迷っていることは重々分かっていた。




「んっ・・・・」

(冷たい・・・・)

山野のあの、滾った猛りが恋しくなる。


それでも、もう我慢できずに冷たいそれを抜き差しすれば、
ブツブツとした突起が内壁を擦り上げ、山野のモノとはまた一味違う快楽をもたらす。




必死に手を動かし突き上げれば、自分の声が生々しく響くだけで、
そこに山野の息遣いがないことをまざまざと感じさせられた。




「あっ、あっ、ああっ・・・」


虚しさに涙が出るが、止められない。
スイッチを入れると、
前立腺を狙いすましたかのように先端が旋回し始めた。


「いっ・・・ああー・・・っ」

先端の動きと振動に翻弄され、すぐに絶頂を極め、身体がのけ反る。

「いっやっ・・・ああん・・・」

バイブの先端は旋回したまま亜月を攻め続け、
閃光のような突きぬける激しい快感に、幾度となく襲われ、
亜月の身体は、狂ったようにびくんびくんと跳ね上がる。


「あっ、あっ、あっあっ・・・あっ」


人にはできない動きに翻弄されるが、
それでもやっぱり人肌が、山野のそれが欲しくなる。



でも今は、この無機質な玩具から与えれる快感に縋ることしかできず、
遠慮を知らない機械的な動きに何度も達して、シーツはびしょびしょだ。

ブーンと体内に響くモーターの音が、
自分が何に犯されているのかを物語り、どんどん惨めになる。



何度目かの絶頂を迎えた頃、電池の残量が無くなってきたのか、
回転のスピードがゆるくなり、
やがてそれは、唸るようなモーターの音がわずかにするだけで、
すっかり動きを止めてしまった。





はぁ、はぁ、と息も上がり、ベッドにぐったりと力なく横たわる。

散々、吐き散らかした自らの精液でぐっしょりと濡れたシーツは冷たくて不快ではあるが、
そんなことはどうでもよかった。

無機質なゴム製の玩具に、尻を抉られて達する無様な自分に、
酷く罪悪感がこみ上げてくる。




「くそ・・・山野・・・お前のせいだ・・・・ちくしょう・・・・!」


玩具まで使ったマスターベーションに、自己嫌悪に陥る。



「ぅ・・・ふっ・・・・」
ぽろぽろと涙がこぼれ、泣くまいと歯を食いしばり堪えようとするが、
こみ上げてくる感情を抑えきれず、涙はとどまることを知らない。


自分の秘部に突き刺さったままの玩具が、
よりいっそう亜月を惨めに貶めた。



「山野・・・・くそっ!!くそっ・・・!!死ねっ山野!!」

亜月はそれを引き抜き、
怒りのままに思い切り壁に叩きつけた。



激しい音とともにプラスチックでできたのスイッチ部分が破壊され電池が飛び散り、
ペニスを模したゴム部分は、
亜月を嘲笑うかのように幾度か跳ねて無傷のまま転がっていく。



やがてコンドームも抜け落ちて、
その有様に全身の力が一気に抜けた。


「ぅ・・・、山野ぉ・・・うっ・・・っ・・・」


泣くことは嫌いだ。
まるで負け犬のようだから。



なのに、山野に関わるようになってからは、
自分の感情なのに、コントロールできないことが増えてきた。


どうしても、涙を止めることができなくて。


亜月はベッドに突っ伏し、
ただただ、いいようのない感情を胸に抱えて一人咽び泣いた。


5へ
うあ〜、もっと早くうpする予定でしたが、
大掃除やらでなかなか更新できませんでした。

クリスマスとか書いてるのに、すっかり年が明けてしまいましたが・・・(^^ゞ

道具を使ってのひとりえっち・・・・もっとローターとか使った描写・・・書きたかったですw
まぁ、そのうち(*^_^*)


(2013/1/1)