ゆずれないモノ 5




亜月がセフレ解消したいと言ったとき、
山野にしてみればやっぱりな、という感じでしかなかった。



セフレの関係は1ヵ月足らず。



数回寝れば、向こうが飽きるだろうと思っていただけに、
一見短いように思えるこの一カ月足らずという期間は、
同じ人間とは寝ない亜月にしてみれば、
長く持った方ではないかと山野は思う。





あの身体を抱けなくなるのは正直惜しい気もするが、
所詮、自分たち不細工には選択権も決定権もない。

とくに、あの三条亜月が相手では。

すべて、モテる男の気まぐれなのだ。



亜月が山野に飽きて、
ホモじゃないから、男とのセックスはやっぱり嫌だと言われれば、
はいそうですか、と言うしかない。

ただそれだけのことだ。

それに、そこに恋愛感情があるわけではないので、
追いすがる気は更々ない。



どうしてもセックスをしたければ、
お金を出せばできないこともないので、そっちでも十分だと今なら思える。

童貞の頃は、やはり初体験に夢があったから、
そういうプロのお姉さんにしてもらう、というのは抵抗があったが、
一度経験をしてしまうと、そこに愛だの恋だのが無ければ、
結局、相手は何だっていいのだということに気づいた。


それに、もともと没頭できる強烈な趣味があるだけに、
今の生活からセックスを取り除いても、別になんら支障はない。


むしろ、年末のイベントに向けてフィギュア作りに集中できるので、
亜月のセフレ解消の申し出は山野には都合がよかった。


それに、どちらかというと
亜月の身勝手やわがままに振り回されずに済んでよかった、
というのが本心だ。




亜月は、例のデータをばらさないと言ったとはいえ、
自分がゆすられている自覚があるのかと疑いたくなるほどの
我儘ぶりを発揮していた。


歯に衣着せぬ言い方で、山野をズバズバと切ってくるし、
山野の都合などお構いなしに、
自分の都合で山野のマンションに押しかけてはセックスをせがむのだ。



断っても聞く耳持たずで強引に押し入り、
気がつけば山野の上で腰を振っていることもしばしばあった。


お陰で、今年はイベント用のフィギュアの作製が、
若干ではあるが遅れているのが現状だ。



そのフィギュアなどの売上げを生計の足しにしている山野とは違って、
すべて親の金で何もかもを思い通りにしているせいか、
本当に、苦労も、「我慢をする」ということも彼は知らない。


そんな亜月に、もう関わらなくていいのだと思うと心からほっとした。







翌日、大学へ行くと、もうすぐ冬休みということもあってか、
サボっている人達もいるようだ。


あとから来た亜月とは一度目が合ったけれど、
ものすごい形相で睨まれたので、すぐに自分から視線を反らした。



それをさして気にも留めず、すぐに亜月からは興味をなくし
同じ趣味を持つ友人と、年末のイベントについての計画を話していた。



泊りにくる人数、日程、コスプレの最終調整。
それらを考えるとウキウキして、自然に顔も綻んでくる。





「ねぇ山野くん、なんか三条くん・・・すごいこっち睨んでいるんだけど・・・」


友人の一人である横尾が怯えながら山野に告げてきた。


睨まれる理由が分からない。
セフレをやめたいと言われたから、快く承諾したというのに。


そういえば、夕べも怒って帰ってしまった。
何で怒らせたのかは分からないが。



山野がもう一度、亜月を見ると、
確かに燃えるような瞳で山野を睨みつけていて、
そして再度目が合うと、亜月は山野のもとへやってきた。




「おい山野、お前、ちょっと来いよ」


怒りを露わにし、顎をしゃくるようにして自分へついてくるよう促した。



(ほんとに・・・何怒っているんだろ・・・)





亜月の怒りどころがイマイチ分からない。

めんどくさい。
実にめんどくさい男だ、彼は。



山野はうんざりした気持ちで溜め息をつき、
亜月の後をついていった。











「なんで・・・なんでお前だけそんなにへらへら笑ってんだよ!!」

いつもの中庭に着くと、
唐突に訳の分からない言いがかりをつけて
亜月が山野の胸倉を掴んできた。


「俺がどんな思いかも知らないでテメェっ・・・!」
鼻に皺を寄せ、綺麗な顔が台無しなほどの憤激っぷりだ。


「あのさ・・・三条くん、ゴメンだけどさ・・・僕はなんで君が怒っているのか
心当たりが全くないんだけど」


「ふざけんなっ!」

怒鳴られ、思い切り突き飛ばされる。



「痛っ・・・!・・三条くん・・・っ!?」


幸い、倒れることはなかったが、
流石に男から思い切り突き飛ばされると、盛大によろけてしまう。


「落ち着いてよ三条くん・・・何をそんなに怒ってるの?」



ここまでされるほどのことを何かしただろうか?
自分は亜月の思うままに、要望に応えたはずだが。


でも山野の言葉に、亜月の表情は更に険しくなり怒号は続く。



「なんで・・・あっさりOKするんだよっ・・・・・」

怒りの表情に切なさが混じる。



「だれも本気でセフレやめたいとか思ってねぇよっ・・・!!!」




まるで悲鳴みたいな亜月の叫びに、
山野は亜月が何に対して怒っているのかを、やっと察した。



ああ・・・そうか。
セフレ解消を引き留めなかったのが気に入らないのか。



意外だった。
まさかそんなことで、去る者追わずの
俺様の亜月が怒るとは思っていなかったから。




結局、そういう関係を続けたいと、そういうことだろう。


意外とは思うものの、この身勝手極まりない男にうんざりした。

山野からしてみれば、
自分を馬鹿にしていた男からセフレになるようお願いされて、
そしたら突然やめたいと言いだして、
それを承諾したら次の瞬間には怒っていて。


・・・ほんとにめんどくさい。


「・・・悪いけど三条くん・・・僕はもう君と、ああいうこと、する気はないよ」


「・・・っ・・・!!!」


断りを入れる山野に、心底信じられないといった表情を見せる。



「・・・なんでっ・・・・」



山野は盛大に溜め息をつくと、取り繕ってもしょうがないので
本音で語ることにした。



「・・・だって君、色々とめんどくさいんだもん」

我儘だし、身勝手だし、人の話を聞かないし、と、
続けられる山野の言葉に、亜月はみるみる顔を強張らせていく。



「それにね、年末にあるイベント用にフィギュアを作んなくちゃいけないんだ。
ゴメンだけど、君に時間を割いてる暇はないよ」


「はぁ!?人形作りを理由に断るとかありえねぇ!人形の方が大事なのかよ!?」


山野の言葉に、亜月が弾けるように反論し、再度突き飛ばした。
そして、怒りのままに、山野に怒鳴り散らす。



「そんな下らねぇことの為に、俺との関係をやめるってのかっ!?」



「・・・・・・・・・下らない・・・・?」



その亜月の言葉に、自らの身体がピクリと震えた。


次の瞬間、
山野は自分の芯が、すーっと冷えていくのが分かった。



「だって下んねぇだろっ!
人形だとかオタクなマンガとかさ、いい歳した男がキモイんだよ!!
そんなだからいつまでも生身の人間に相手にされ・・・」

「三条くん」

思いの外低い声で、山野は亜月の言葉を遮った。



自分の視界に亜月を捉える。


その鋭い目で亜月を凝視すると、
亜月は射すくめられたように顔を強張らせ、
はっと息を呑んだ。



「・・・・・・下らないってどういうこと・・・?」




それでも、人に手を上げてはいけないという思いから、必死に怒りを抑える。
握りしめた拳が震えた。



「どうして・・・なんで君が、物事の価値を決めるんだよ」

「あ・・・や、山野っ・・・」


山野のただならぬ怒気を感じとったのか、亜月が激しく動揺を見せる。



「君にとっては下らないことでも、これは僕らにとっては生きがいなんだよ。」


山野が一歩近づくと、亜月は狼狽えながら一歩後ずさった。



「実現できるかもしれない夢に向かって一生懸命やっていることなんだよ・・・!
親の金と権力で威張り散らしている君が、何を下らないって!?言ってみろっ!!!」

「っ・・・!!」

誰がなんと言おうと、これだけはゆずれない。


普段温厚な山野の激昂は、中庭中に響き渡り、
亜月の身体がビクッと震え、怯えさせた。






小さい時からプラモデルや粘土細工が大好きで、
大好きなマンガやアニメ、ゲームのキャラクターを
立体的に作っていくことに感動を覚えた。

原型師になりたいと思ったのは、中学生の頃だ。



みんなそれぞれ趣味があって、夢があって、
叶う、叶わないは別として、
いつか辿り着きたい場所へ行くために、必死に努力している。



それこそ最初は、山野の作ったフィギュアだって
誰も見向きもしなかったけれど、
イベントへの参加や、オークションへの出品、
ホームページなどで懸命にアピールをし、
地道に努力してきたからこその今がある。



特にやりたいこともなくて、親の金で暇つぶしで大学に来ては、
女を食い散らかしているような輩に、それを下らないと言われる覚えはない。


人の夢を穢すなんて、君の方がよっぽど下らない人間だと、
そう言ってやりたかったが、
同じレベルに堕ちたくないと我に返り、
言うのをすんでのところで押しとどめた。





「・・・・はぁ・・・・。僕たちは、価値観が違いすぎるね・・・」

山野は大仰に溜め息をつくと、力無く呟いた。

所詮オタクと、亜月のような華やかな世界の住人とは、
住む世界が違うのだ。




「やっぱり僕と君とは相入れないようだね。・・・今度こそ、もう二度と、僕に話しかけないでくれ」

「・・・山っ・・・・」


穏やかな言い方が、かえって山野の怒りの度合を表している。


人の夢を笑うやつは、絶対に許せない。


亜月がどんな表情をしていたかは分からないが、
もう、この男との関わりを絶ちたかった。



「さようなら」




山野は、一言一句、はっきりとそう冷たく言い放つと、
微動だにしない様子の亜月を置いて、中庭を後にした。





6へ
ちょっと短めですが(*^_^*)目線って難しいですね。誰目線?とかね。

今回も、亜月目線か、山野目線かで悩みましたが、山野の考え方なども書かないと、と思い、山野目線で・・・。
・・・はぁはぁ・・・がんばります・・・・!




2013/01/10