ゆずれないもの 6

●2015/08/27・・・中盤、一部分かりづらすぎる文を修正。



山野から激しい怒りがぶつけられ、
全身が竦み、皮膚の表面がビリビリと痺れて、
心臓が鷲掴みにされたような衝撃が走った。

まるで、足が地面に縫い付けられているかのように
ぴたりと張り付き、少しも動かすことができない。



今まで、感情を激しくぶつけられた事がなかった亜月は、
生まれて初めて他人から咆哮され、心の底から怯えた。


山野の姿が完全に見えなくなると、徐々に視界が歪んでくる。


初めて他人から怒鳴られた屈辱、
思い通りにできないもどかしさ。
込み上げてくるものを抑えることができない。


「・・・くっ・・・・」


歯を食いしばり、ぎゅっと握った拳が悔しげに震える。




どうして、こうなってしまうのか。

自分はなぜ、山野を怒らせてしまったのか。
なんで山野は自分を理解してくれないのか。



どうして自分は、山野を理解できないのか。
・・・もしかしたら、
自分は誰のことも理解できていないのかもしれない。



(だって誰も、今まで俺に、注意してくれなかったじゃないか・・・!)


これまでの人生、亜月はやりたい放題で自分の思うままに生きてきた。
でも、それを咎める者は誰ひとりいなかった。



三条財閥の5人兄弟の末弟として生まれ、
両親や、歳の離れた兄達や姉は、亜月を溶けそうな程に甘やかした。


金も権力も兼ね備えたお家柄だけれども、
末弟故に、後継ぎの義務も重圧もなく、自由奔放で、
まさに、人生を好きなように謳歌できるのだ。

学校を卒業すれば、親の経営している大企業に就つける。
まさに「苦労」という言葉は、亜月には無縁だ。


周囲が亜月の顔色を窺うのも当たり前で、
亜月にとって不利益な状態はすべて金で解決された。


傍若無人さは、まさに家族の愛と
恵まれ過ぎた環境によって作られたのだ。


そんな家族の唯一の教えと言えば、
他人を、完全には信じてはいけないということ。


人を蹴落としてもいい、
人を傷つけても泣かしてもいい、
人を騙してもいい、

ただ、信じてはいけない。

自分たち富裕層は、色んな人から妬まれ、常に狙われている。
周囲は全て敵だと思って接しろ。
そう言われ続けてきた。

何が足元を掬うか分からない。
人は絶対に裏切るから。

だから、些細なことではあるが
どんなに仲が良くても、情が湧かないように
亜月が他人を、下の名前で呼ぶことを禁じられた程だ。



結果的にその偏った教えや、甘い育て方が、人の痛みも分からない、
澆薄(ぎょうはく)な亜月を作りだしてしまった。


それが今、こうして亜月を苦しめる。




誰かに対して、特別な想いが芽生えた時に、
どう対処していいのか分からないのだ。



胸が痛い。
助けてほしい。

今まで、こんな風に考えたことも、
追いつめられたこともなかった。


こんなに胸が苦しいのは、生まれて初めてだ。


この気持ちに、ある種の疑惑が浮かんだ瞬間、
亜月は酸素を求めるように、胸を喘がせ、
その場にしゃがみ込み、とうとう泣き崩れた。



「・・・亜月!?」




振り向くとそこには坂下と西川が立っていた。


「亜月っ・・・どうしたんだよ!?さっきからいないと思ったら・・・」


「さ・・・かした・・・・っ」


坂下の顔を見た途端、張り詰めていた糸が切れたように、
一気に気が緩み、亜月は余計に涙があふれてきた。


小さい子供が、喧嘩をしてもその場では泣かなかったのに、
母親の顔を見た瞬間に、
ほっとして突然泣きだしてしまうアレに似ている。

普段、人前では絶対に涙を見せない亜月に、
友人二人はギョッとした。


「あ・・・亜月・・・!?」




「・・・れ・・・俺っ・・・・っ・・・」

口元を押さえ、言葉が聞き取れない程の嗚咽が漏れる。



ただならぬ状態に二人は学校を早退し、
亜月をマンションへと連れて帰った。











亜月のマンションへ着くと、
慣れた様子で坂下が3人分のコーヒーを用意する。


その頃には亜月もだいぶ落ち着いてきたが、
それでも、はらはらと零れ落ちる涙はとまらない。



「わ・・・悪ぃな・・・二人とも・・・」

コトリと、テーブルにカップを置いた坂下と西川が固まる。



「・・・・亜月・・・、なんかキモイ・・・」


まず、人に謝るということをしない亜月の謝罪は、
たとえ軽いものであっても、相当不気味に映るらしい。

特に心配性の坂下は、
熱があるのかと、亜月の額に手を当てた。

「ね、熱は無ぇよ!」

と、ムッとして坂下の手を払い、
彼の淹れた甘いコーヒーを啜るが、
手を叩(はた)かれたことを気にした様子もなく、
坂下は涙を拭けと、亜月にティッシュを渡してくれた。


坂下と西川は、高校生の時からの友人で、
こんな亜月をまるごと受け入れてくれるありがたい存在だ。

でも、ふと亜月の心にある疑問が過る。

なんでこの二人はずっと、なんの見返りもなしに、
ここまで傍若無人な、亜月の友人で居てくれるのだろう。







「で?・・・何があったんだ?」

ブラックコーヒーを啜りながら西川が優しく聞いてきた。


亜月が人前であんなにボロボロに泣くなんて、
今まで見たことがないと、
心配と同時に興味津々な様子が見て取れる。


聞かれて亜月はどう答えていいのか少し迷った。


はたしてこの二人に話していいかも分からないし、
たった今、自分でも自覚したばかりの事を
どう説明したらいいかも分からない。



考えあぐねたが、このまま悶々としていてもしょうが無いので、
思い切って口を開いた。







「・・・俺ね、たぶん・・・好きなやつ・・・できた・・・かも・・・」


その言葉に、坂下と西川の動きがぴたりと止まる。


「や、・・・好きっつっても・・・さっき気づいたっつーか・・・」


そもそも初めての感情で、これが本当に恋かも分からない。
頬を染めて話す亜月を、二人が険しい表情で見ていること気付かず、
亜月は話を続けた。





「でも、すげぇ怒らせて・・・・フラれた・・・っぽい・・・」


初めてフラれた・・・そう呟いてまた泣きそうになる。



「・・・誰だよ・・・お前の好きなやつって・・・」


眉間に深い皺を刻んで坂下が聞いてくるが、
いくらこの二人でも、やはり山野の名前を出すのはまずいと思い、
それだけはどうしても言えないと頑なに拒んだ。



自分が一番馬鹿にしていたオタクだし、第一・・・・男だ。




そんな二人の、言え、言わないのやり取りを、
険しい表情で見ていた西川がふいに口を挿んできた。


「・・・・で、お前は何をして、山野を怒らせたんだ?」

「・・・あいつの大事なものを、下らないって・・・」

そこまで言ってしまってからハッとする。


「・・・山野・・・?」
坂下が怪訝そうに亜月を睨めば、
しまった、とばかりに目を反らしてしまった。

これでは、肯定してしまったも同じだ。




「・・・やっぱりな・・・」

眉間にしわを寄せて、溜め息混じりに西川が険しい表情を作る。


「えっ!?いやっ・・・ち、ちが・・・山野は関係ないって・・・!」

慌てて否定するが、西川の表情は確信に変わっていた。


「うすうす、そんな気がしてたんだよ」

西川の、さっきまでの優しげな雰囲気は、
先程とはとは打って変わり、
なぜか怒りに似たものへと変化していた。


「よりによって・・・あんな不細工オタクに、
お前を持ってかれるとかありえねぇだろ・・・!」


「・・・え・・・?」

一瞬、何を言われたのか理解できずにいたが、
次の瞬間、景色が反転したかと思うと、
強い力で身体を押さえつけられてしまった。


突然の出来事に反応できず、
自分が西川から押し倒されていることを知るのに
少し時間がかかってしまった。

西川の力は思いの外強く、
亜月は抵抗を試みるが逃れることができない。

「何すんだよっやめろ!・・・坂下っ・・・こいつ止めろよっ」

だが、その坂下も複雑な表情で亜月を見下ろしていた。

そして、助けるどころか、ごめん・・・と一言呟いて、
亜月の両手を抑え込んできたのだ。


一体、何が起こったのか。



(いきなりなんなんだ・・・!?)

さっきまで泣いていた亜月を、優しく慰めていた二人だというのに。

「はなせっ!ふざけんなよっ!!」

必死にもがくが、二人がかりで抑えられればびくともしない。

高校生の頃は、ヒョロっとしていて頼りなかったのに、
いつの間にこんなに強くなったのだろう。


「どうして山野なんだ・・・!?女ならともかくっ・・・
ていうか、よりによって何であんなオタク野郎なんだよ・・・亜月・・・!!」

「んっ・・・!?」

激しく批難され、いきなり唇を塞がれた。

逃げても逃げても、西川の舌は執拗に亜月を追ってきて、
それは想像以上に甘く、亜月を蕩かせるには十分だ。


「ねぇ亜月・・・山野とは・・・どこまでいったの?」


問い詰める坂下の声も、熱っぽく見つめてくる瞳も、
酷く甘美で、思わず亜月は息を呑む。



「どこまで・・・って・・・」

たちまち紅潮する亜月の顔に、亜月と山野の情事を察し、
二人は嫉妬のこもった険しい顔で亜月を見下ろした。


「へぇ・・・最後まで・・・させたんだ・・・?」
「ちがっ・・・・」

いたたまれなくて目を反らす。


「亜月はさ、嘘をつくときは目を反らすよね。亜月・・・彼と寝たんだ・・・」

「坂下っ!」

坂下を批難しようとして、起き上がろうとするが、
再度西川が力ずくで押さえつける。

いつも自分に甘い坂下が、
西川の強行に加担しているのが信じられなかった。

今になって、親の言っていた人は裏切るという言葉が脳裏を過る。



「・・・男に突っ込まれるのは・・・悦かったか・・・?」
「・・・何・・・言ってんのっ・・・・?」

西川の問いかけに、更に顔を赤らめ狼狽することで、
亜月が男に抱かれる快楽を知っていることを伝えてしまった。


西川の顔が、不穏な笑みを作る。


「お前はさ・・・、山野が好きなんじゃなくて、
男から与えられる快感に溺れているだけだ。
どうせなら、あんな不細工オタクじゃなくて、
俺らみたいな、巧くてイイ男に抱かれた方がいいんじゃないか・・・?」

西川が、亜月を諭すように耳元で優しく囁く。



まるで、亜月を誘惑する悪魔の囁きだ。


亜月を落ち着かせるような声音に、
恐る恐る、西川と坂下の顔を交互に見た。

さっきまでの剣呑な雰囲気はなく、
優しげな瞳で亜月を見つめている。


坂下と西川の手が頬をふわりと撫で、身体がぞくっと痺れた。



男に抱かれる快感に溺れているだけ。
どうせ抱かれるなら巧くてイイ男の方がいい。


確かにそれも、一理あるかもしれない。


あの快楽を与えてくれるのであれば、
別に山野でなくてもいいわけだ。


不細工で、オタクで、
まったく亜月の思い通りにならない山野より、
見栄え良く、亜月にいつも尽くしてくれる二人と快感を共有できたら、
そちらのほうが断然いいように思えてきた。





「・・・それも・・・そうだよな・・・・?」



あんなふうに、訳のわからないことで怒って
この亜月を振り回すような男に、
恋愛感情なんてやはり勘違いだったのかもしれない。


山野にこだわる理由はない。
あいつに恋心なんて・・・認めたくない。

さよなら、と、最後に告げられた言葉は、亜月の心に深く突き刺さった。


その痛みを上塗りしてくれるなら。


「いいぜ・・・忘れさせてくれるなら・・・」

亜月は全身の力を抜いた。


さっきまでの抵抗はなくなり、
全身に帯びていく亜月の異常な色気に、
西川と坂下は思わず喉を鳴らす。


そして二人は、心底嬉しそうに亜月に微笑みかけた。















「んっ・・・・」

亜月を二人の間の挟み、
西川と坂下は、最初の怒りが嘘のように、亜月に優しく触れてきた。



持ち前の器用さで亜月を悦ばせる山野とは、
また違った心地よさが亜月を満たす。

不思議と嫌悪感は無かった。


むしろ気持ちいい・・・。


二人の手が、あらゆる部分を愛撫する。

「あっ・・・」

背中にわき腹、腕や手のひら・・・
経験の少ない山野はまず触れてこない。

特に指の腹。

1本1本、ふわりと撫でられていくと、
なんとも言えないくすぐったいような気持ちよさが広がり、
二人が触れる度に全身がぴくんと跳ねる。

(こんなとこも、こんなふうに感じるんだ・・・)


亜月の性感帯をくまなく探ろうとしてくれる、
二人の繊細な指や唇に身を任せ、
その度に、びくびくと反応を見せる亜月に二人とも気をよくした。

亜月もまた意外な自分の性感帯を知っていく。

「・・・あ・・・・」

亜月は二人の与える心地よさに、感嘆のため息を漏らした。



やっぱり慣れている人は違う。

でも、そう感じるたびに、また山野の指を思い出し、
どうしても比べてしまうのも事実だ。



セックス初心者の山野には、
相手の身体を「開発」するという考えには、
まだ至っていなかったのだろうし、

男同士だし、
そういったスキンシップは必要最低限あればいいと、
それほど重要視していなかったのかもしれない。

そういえば、唇に至っては、
臍より下に触れたこともないな、と思い当たった。

亜月も山野も、男性器を口に含むといった選択肢は、
互いに持っていなかったらしい。



セックス=挿入という概念があるからなのか、
蕾が解れると、山野はその猛りを亜月の中へと埋めていく。


そうしてあとは、山野の熱に突き上げられ続けるのだ。


中でイクことも覚えた。

山野のペニスが中を擦ると、
本当にえもいわれぬ快感を得られる。

そうして、長い、長い時間、快感の渦に飲み込まれ、
そこからは這い上がるのは不可能だ。

そこに、身体の相性の良さが加わり、
亜月は山野とのセックスにどっぷりと浸かっていったのだ。



何かのキャラになりきった言葉攻めは、
山野独特のものだし、

触れられただけで、
肌が喜びにざわめくようなあの不思議な感覚、
挿れられただけで、イキたくなるくらいの気持ちよさ。

いくら西川と坂下が巧くても、決して得ることができない。


きっと山野だから。


「・・・・やまの・・・」


「おいおい、なんでそいつの名前・・・・」

無意識に山野の名を呼んでいた。

それでも、特に怒った様子もなく、二人の愛撫の手は止まない。


「こら亜月・・・このタイミングで山野はないだろ・・・?」


坂下が、優しく言いながら、
まるでお仕置きとでもいうように、
硬くなり始めた亜月のそれを、いやらしく何度も擦りあげた。

「あっ・・・あぁっ・・・」

ぴくんと腰を跳ねさせ、抵抗にはならない抵抗を見せる。

坂下はそれを催促と取ったのか、
だんだんトロトロと先端から溢れ出ている蜜を、
まんべんなく亜月の茎へと塗りこめて、さらに速度を上げてやる。

「んあっ・・・・だめっ・・・だめっ・・・あっ」

「ダメなのが、勃つわけないだろが」

くちゅくちゅと卑猥な音は耳を犯す。


「ひあんっ・・・!」

尿道をそっと抉れば、ぷちゅ・・・と卑猥な音をたて、
亜月もまた一際高い声で啼いた。


指を離せば、これまた卑猥に糸を引く。


その様をじっと見られると、羞恥に煽られ、
刺激と興奮で亜月のモノは更に硬度を増し、反り返る。


そこと反比例して、ふっくらと溶かれていくのは、
山野から男性器を迎える蕾へと変えられた、亜月への入口だ。

最初、ためらいがちに触れてきた西川だが、
あっさりと指の挿入を許すと、
ぬるりと絡みついてくる粘膜に、思わず息を呑んだ。

「ああっ・・・!んっ・・・」

西川が驚きを通り越して感心した様子で、一気に指を3本に増やし、
亜月の蕾にねじ込んでいく。


「あん・・・やっ・・・!」

「柔らか・・・・おまえ、どんだけ仕込まれてんだよ・・・」

これが俺のアレに絡みつくのか・・・と、生唾を呑み、
興奮を抑えられない様子で、何度も指の注挿を繰り返す。

「ひっ・・ああっ」

「うわ凄いね・・・西川の指・・・あっさり3本も・・・」

「いっ・・・やっ・・・そこっ・・・だめっ・・ああんっ!」

敏感な突起を引っ掻かれた瞬間に、亜月がびくんと激しく跳ねた。


「こりゃ、思ってたより手間かけなくてもいいかもね」

「ああ・・・」
西川の喉がごくりと鳴る。


西川の指を放すまいとする中の動きに、自分でも驚いた。


結局、誰のにでも嬉々としてむしゃぶりつくそこに、
やっぱり、山野でなくてもいいんじゃないかと、
亜月自身が苦笑する。


ここまでくると、太くて熱いもので抉ってほしくて堪らなくなる。

尻がペニスの挿入を待ち望んで、ひくひくと収縮を始めると、
西川がにんまりとほほ笑んだ。


「なんだ・・・そんなに待ち遠しいのか・・・」

呟きながら、いつも冷静な西川が酷く興奮して、
自らの起立を早急に亜月にあてがう。

「さ、坂下、俺が先に挿れるぞっ・・・・・!」

坂下が溜め息混じりに目だけで返事をすると、
西川はゆっくりと亜月の粘膜へと侵入してきた。


「あ・・・いっ」

熱いものが押し入ってくる。

割挿ってくるカリはやっぱり圧迫感があって、
ごりごりと襞を割き、身体を引き裂く感覚に亜月は歓喜に震える。

「んっ・・・あっ・・・」

「・・・くぅっ・・・すげっ・・・たまんねっ・・・」

互いに息を詰める。



「・・・お前をフッたやつなんか忘れて、俺らに抱かれとけよ・・・」

俺と坂下なら、お前をずっと大事にするから・・・
そう続ける西川の声は、どことなく切なげだ。

「ああっ・・・あんっ・・・・」



ずくずくと熱は挿っていき、
とうとう根元まで西川のモノを飲み込んでしまった。

「あ・・・」

熱い猛りが筒にみっちり埋まっていく感覚に、
亜月も恍惚とした表情を浮かべ、ゆっくりと息を吐いた。

「動くぞ・・・」

「あっ・・・あっあっ・・・」


遠慮がちに開始された律動に、亜月の腰がじんわりと甘く痺れる。


「うっ・・・あっ・・・すげぇ・・・亜月・・・すげぇいい・・・」


西川もまた、恍惚の表情を浮かべて亜月を突き上げる。
動きは次第に速度を変え、皮膚のぶつかり合う音が響く。


西川に突き上げられるたびに、
亜月の身体は快感に打ち震える。

「あっ、あっ、あぁっ・・・」

亜月の先端からは体液が零れ、自らの勃起を濡らしていく。
そこに坂下が愛撫を施せば、亜月の声は、さらに甘くなる。

その卑猥な様子にさらに西川は興奮し、亜月の前立腺を突き上げた。

「いやっ・・・いやっ・・・ああん!」


びくんっと腰が跳ね、中の襞が西川をぎゅうっと締め付ける。

亜月の猛りもまた、臍まで反り返り、
愛撫を施す坂下の手をもぐっしょりと濡らした。

その淫猥さに坂下は舌舐めずりをし、
なんの躊躇もなく亜月のペニスを口に含んだ。


「あ・・ああっ・・・やめ・・・」

坂下の舌が亜月自身にぬるりと絡みつき、
剥き出しになった敏感な亀頭に、
カプリと軽く歯を立てた。

「いやぁっ・・・だっ・・・・!」

弾けるように身体が跳ね、電流が流れるような強烈な快感に
悲鳴を上げる。

それでも坂下の口淫は止まず、
溢れる蜜を全て舐めとり、尿道へと舌先を差し込んでは
小さな穴さえも犯していく。


二つの弱い場所を同時に責められ、
堪らない疼きがこみ上げ、亜月はもう限界だった。


「あ・・・ああ・・・嫌っ・・・嫌っ・・・あぁん・・・」

もうすぐ絶頂も近いというのに、
何故か亜月の頭には、山野の顔がちらついた。




「あっ・・・・嫌っ・・・山野っ・・・・」


ふいに呼んだ、別な男の名を聞いても、
西川の剛直は萎える様子を微塵もみせない。

それどころか、質量を増し、激しく亜月を突き上げる。

「ああっ・・・にしっ・・・西川・・・やっぱ・・・だめっ・・・!」

突き上げが激しくなり、亜月も身体も大きく揺すられる。

西川のその猛りで、
敏感な性器に作り変えられた肉筒を擦られるのは、
それはもう堪らない快感をもたらす。

これなら女が寄ってくるはずだと納得できる。


気持ちがいい。

前立腺をガンガンに突かれて喘いで、
飛びそうになるほどに、
気持ちは、いい。

「何が・・・だめ・・・?・・・気持いいだろ?」

悦さげに喘ぐ亜月に西川が訊ねる。


「いい・・・・いいよぉっ・・・・」

目はとろりと溶け、
語尾にハートマークがつきそうな程の、甘い甘い亜月の答え。



「気持ち・・・いいけどっ・・・あっああっ・・・」


確かに気持ちいい。
もっともっと摩擦されてイッてしまいたい。

それくらい、気持ちいいけれど。

快感による生理的な涙とは別の涙が、亜月の瞳に浮かぶ。


(・・・やま・・・の・・・)

こんなに気持ち良くて、
決して嫌いではない西川から愛されている最中なのに、
絶頂を迎えたくなる度に、山野の影が過る。




気持ちよければ気持ちいいほど、
山野に対する罪悪感で、胸がいっぱいになる。




「おい・・・亜月・・・・?」

坂下が心配げに亜月に声を掛けた。



「あっ・・・ああっ・・・に、しかわっ・・・もうっ・・・はぁんっ・・・」

今まで、何人抱いても、捨てた女がどんなに泣いても
こんな気持ちになったことなんてない。

誰かに義理立てする操なんて、持ち合わせてはいなかったはずだ。


罪悪感なんて、亜月に一番縁遠い言葉だったはずなのに。



亜月に対して、
なんの未練も持っていないような山野に抱く罪悪感は、
何の意味も持たないのに。


西川に突かれながら、どうしても山野を思い出す。

どうしても、山野と比べてしまう。




ああ、そうだ。




(やっぱり俺は・・・山野のことが好きなんだ・・・)



そう、観念した時だった。


「あ・・・やべ・・・出すぞ・・・!」

西川の声で亜月は我に帰る。

射精を促す動きへと変わってきて、亜月は焦った。


どうしても、中には出してほしくなかった。

「嫌だ・・・西川お願いだから・・・!」

「亜月っ・・・・」

中に出すのは止めてと、
そう告げようとした瞬間、自らの嬌声が邪魔をした。

「いあぁあっ・・・ああっ・・・ああっ・・・・!!」

一番敏感な突起を思い切り抉り上げられ、脳天まで突き上げるような
強烈な快感に支配され、亜月は絶頂を迎えた。

そしてその熱は、坂下の口の中へと放たれる。



それと同時に、亜月を抉っていた熱は引き抜かれ、
瞬間、顔面に熱い飛沫(しぶき)を浴びせられた。



「あっ・・・・」

亜月の顔が、西川のそれで白く彩られる。



「くそっ・・・・!」


亜月の何かを感じ取ったのか、
西川は亜月の体内には出さず、直前にそれを引き抜いた。


せめてもの腹いせなのか、
西川は亜月に顔射することを選んだようだ。

なんとなく、亜月の心中は察しているのか、
西川の表情には悔しさが滲んでいる。


亜月の吐きだした体液を飲み干して、
ご満悦な坂下とは対照的だ。



「ほら、舐めろよ」


そう言って、
西川は己のペニスを亜月の前に突き出した。


亜月はふるふると首を横に振り、
吐精してだらりと垂れ下がった西川のそれを、
口に含むことを頑なに拒んだ。 


「・・・あいつにも、してるんだろ?」

亜月はまたも首をふるふると横に振る。
フェラチオなんて、山野とはしたことがない。

考えたこともなかったら。


「じゃあ俺で練習すりゃいいだろ・・・ほら、舐めろよ」

何か変なスイッチが入ったのか、
西川が強引に、突っ込もうとしてくるのを、
歯をくいしばり必死に拒んだ。


「おい・・・・西川・・・・」

坂下の咎めるような低いで、西川は我に返った。

見れば坂下からは魔王のごときオーラが立ち昇り、西川を睨みつけている。



「西川・・・もういい加減にしろ。ほら、亜月、おいで」

両腕を広げる坂下の胸に、亜月は反射的に飛び込み、
少しだけ震えるその身体を、坂下が抱きしめた。


我には返ったものの、
次はお前が挿れる番だろう、と坂下を促し、
バツが悪そうにふてくされる。



「俺はもういいよ・・・。亜月の苦しそうな顔、見たくない」

「苦しそうって・・・悦がってたろ」

「身体はね・・・・・でも心は泣いている」

その言葉に、亜月の心臓がどくんと跳ねた。

「西川、お前も気付いてたろ?・・・俺は、亜月が好きだから、抱かなくてもいい」


「・・・お前、卑怯だ」


ったく・・・あんな不細工のどこがいいんだか、とか
俺だけが悪者じゃないか、等と、ぶつぶつと呟きながら
西川は自分の後始末を始めた。

そう言いながらも、どこかすっきりしたような
割り切ったような調子で西川は衣服を整える。


「亜月、立てる?・・・シャワー浴びといで。一人で大丈夫?」


「お前・・・俺に甘すぎだよ・・・」

少し掠れた声で、亜月が呆れたように坂下に言うと、
亜月に尽くすのが好きだからいいのだと、爽やかに返された。


多少脚にダメージがきてはいるものの、
絶倫な山野との性交に比べれば、全く問題ない。

お前も口をゆすげよ、と、
坂下に告げて亜月はバスルームへと向かった。


坂下が心配する中、シャワーを浴びて身を清めると、
西川の香りが流れていくことにほっとした。


別に中に出されたわけではないが、
入口に手をあて、中まで綺麗にする。

西川とのセックスは、全く後悔してないし、
嫌でもなかったし怒ってもいない。


でも、
そうすることで、なんとなくリセットされたような気がした。







「ゴメン・・・亜月・・・俺のこと嫌になったか・・・?」

シャワーから出ると、西川が心配そうに、おずおずと訊ねてきた。
普段のクールな西川からは想像がつかない動揺ぶりだ。


髪から滴り落ちる水分を拭きながら、亜月はふるふると首を横に振る。

「大丈夫・・・ちゃんと気持ち良かったし、お前のことは嫌いじゃねぇよ」

にっこり微笑んでそう告げると、
そっか・・・と、ほっとしたように、西川は胸を撫で下ろしたが、
その表情はどこか切なげだ。




それに、操に関しては、女ほどシビアになる必要もないので、
西川とそれに加担した坂下を責める気は毛頭ない。


自分も、今まで散々なことをしてきているし。


ただ、もう二度と、西川とも坂下とも
性的な意味で身体を合わせることはないだろう。

それをなんとなく察しているのか、
二人は少しだけ、残念さを含んだ複雑な表情で亜月を見つめた。



二人が見返りを求めてこなかった理由。
それを考えると、少しだけ胸が痛んだ。

これは、亜月にとっては相当の進歩かもしれない。















「でさ、・・・・山野って、そんなにいいのか?」


重かった空気を変えたかったのか、
少しだけ続いた沈黙を破ったのは坂下だった。



坂下の突拍子もない言葉に、
ぶはっ、と飲んでいた珈琲を盛大に噴き出したのは西川だ。


ごほごほと、器官に入った液体に咳込みながらも亜月に視線を注ぐ。


二人から視線を注がれて、亜月はうっとりと頬を染めながら、
恍惚とした表情で、一回だけ、うんと頷いた。


その表情が、山野に対する亜月の想いを全て物語っていたのか、
二人が付け入る余地のないことを思い知らされたようだ。

困ったニュアンスを付け足しながらも、
安心したように、そっか・・・とだけ呟いた。


山野の方が気持ちいい、というより、
山野じゃなきゃダメなのだ。



「だってあいつの・・・
挿れられただけでイキそうになるっつーか・・・
なんていうの?肌と肌がくっつきそうっていうか・・・」


体育座りになって、耳を真っ赤に染めながら、膝に顔を埋めた。


当てられたように西川は苦笑いし、
身体の相性と、本気の恋には敵わないのかと呟いた。



「ところで亜月、ちゃんと山野に自分の気持ちを伝えたのか?」

「あ・・・」

不意に顔を上げ、山野を怒らせた経緯を振り返る。


思い返せば、
あっさりとセフレを止めたことと、
学校で友人と楽しくしていたことに腹を立て、
一方的に喚き散らしただけだった。

フラれたなどと思う前に、
告白の「こ」の字すら思い当たらない。


それに、前々からの亜月の散々な仕打ちとの相乗効果で、
山野がもう関わりたくないと思うのは無理もないことだ。



どんよりとした、重くて暗くて押しつぶされそうな心に、
生まれて初めて「反省」という感情が芽生えた。


「もう一度・・・改めて、ちゃんと告白してみたらどうだ・・・?
まぁ特に、お前の場合、相当言葉を気をつけないと、
信じてもらえないかもしれないけどな・・・」

西川の助言に、坂下もそうだなと相槌を打つ。


西川と坂下は、ふっきれたのか、
二人の関係を応援するポジションへと、
自然に移っている。

切り替えが早いのか、それだけ賢いのか。


今までは、亜月が「友人」という肩書を与えて、
傍に「居させてあげている」つもりでいた。

でも今回のことで、
ちょっとやそっとでは壊れない、友情で結ばれていることを実感し、
亜月は初めて、二人の存在にありがたみを感じた。



西川の言葉に亜月もまた、告白か・・・と小さく呟き、
改めて、今までは自分が上からの物言いだったと気付く。


そうだ、今度はちゃんと、「告白」をしよう。
命令や押し付けではなく、きちんとしたお願いをするのだ。





亜月は、西川と坂下に、事の成り行きをぽつぽつと話し始めた。



亜月が山野を嫌っていたのは、二人とも知っていたが、
軽いとはいえ、多少の暴力をふるっていたこと、
唾を吐くといったような、相手を冒涜するような行為は知らなかったようだ。

あまりにも辛辣な罵声や、人を人とも思わない愚行は、
無意識に、坂下と西川のいないところで行われていたようだ。


それは亜月が悪いね、と、
亜月の仕打ちに山野がキレたのは無理もないと、
山野を庇った坂下だった。


が、実は最初は、合意ではなく、
山野から薬を使ってレイプされたのだと話した瞬間、
坂下が般若のごとき形相で「山野、殺す!」と叫んでいた。


まあまあと、肩をたたく西川に宥められ、
でもレイプがきっかけで、亜月を何度も抱けた山野を、
やはり羨ましいと思ったようで、

「こんなことなら俺も・・・」
そこまで呟いて、ハッと我に返り、なんでもないと呟いた。




「どうしたら、山野は俺を許してくれるかなぁ・・・」

さんざん身勝手な振る舞いをしておいて、
今さら好きだなどと言っても、確かに信じてもらえないだろう。
とても難しいかもしれない。



しゅんと俯く亜月の髪を、愛おしげに坂下が撫でる。



今まで誰かを好きになったことなどない亜月は、
何をどうしてもいいのか分からない。


「あ!」

いいことを思いついたとでも言うように、
坂下が、ポンと手のひらに拳を打ち付けた。


「亜月、山野のを咥えてみたら?」

ぶー!

今度飲み物を噴き出したのも、またしても西川だった。


「ちょっ・・・も〜〜っ、西川!お前ちゃんと掃除して帰れよ〜」

亜月が眉間に皺を寄せて、西川にタオルを投げると、
またも咳込みながら、手でゴメンのポーズをとり、
言われた通りに、汚した部分を拭き始めた。


「だって亜月、山野にフェラしたことないんだろ?
どっかで襲ってさ、
押し倒してしゃぶってやれよ!なんなら薬とか使ってさ〜。
お互い様なんだし」

綺麗な顔に、
こともなげに言われて、流石の亜月も狼狽える。


「まぁ・・・確かに・・・、
俺のをペロペロしながら『ごめんなさい』なんて、女に言われたら、
俺も許すかもな〜〜」

と、西川まで言いだした。



確かに、女に咥えさせた時の征服感は、
形容し難いものがある。


女に貶められるのは亜月の方だが、
山野にだったら征服されたいというマゾヒズムが、
むくむくと頭を擡(もた)げた。



無意識に、手で山野の勃起時の太さを再現し、
口をあー・・・と大きく開けて、

「入るかな・・・・」

と呟いた。

それを見ていた西川と坂下はギョッとする。



「お、おい・・・!亜月・・・!」

「・・・その手はなんだ・・・その手は!」

「あ、コレ?コレねぇ、
山野のって、こ〜んなにぶっとくて、こんくらいの長さで・・・」

恐る恐る訊ねる西川に対して、
亜月は、山野のモノがいかに立派であるかを
手と指を駆使し、嬉々として再現してみせる。



「そんでさ、カリとかもスゲェ開いててさ、でも色は綺麗・・・・」

「や、もういいから」


亜月のジェスチャーで、山野のサイズを想像したのか、
男の性器の説明にうんざりしたのか、
二人とも急に無口になった。



大人しくなった二人を不思議に思いながらも、
つい、山野の巨根に奉仕する自分を想像してしまう。


アレに両手を添えて、ペロペロとしている自分。

口に含みきれず、涙目で山野に懇願する姿さえ容易に想像でき、
妄想に耽るあまり、山野のペニスを模した指の輪の前に、
思わず舌をちらつかせ、先端を舐めるように蠢かせる。


そんな亜月の様子に、
蚊帳の外な二人がごくりと生唾を呑み、頬を染めたが、
ごほんと咳払いをし、亜月を現実に引き戻した。



「・・・どうしたの?何?」

「・・・・・・・・・・・・・・・いや、別に」

謎の敗北感に打ちひしがれている二人を、不思議に思いながらも、
すぐに山野のモノに奉仕してあげたいという気持ちでいっぱいになる。


でも。

「あー・・・でも・・・たぶん口聞いてくれない・・・」

その前に解決しなくてはならない問題があることを思い出した。
すっとばされていた謝罪という行為もそうだが、

まず、彼に会わないことには始まらない。


二度と話しかけるなと突き離され、
さようならと言われた。

あの冷たい声と言い方は、亜月にはとても堪えた。


迷惑気な冷たい視線が、今も亜月の心を凍らせる。



でも、それを乗り越えないと始まらない。


さっきから紅くなったり、エロくなったり落ち込んだりと、
今までにない位、乙女な亜月を見つめ、
坂下と西川が、可愛いなぁと呟く。


可愛いと言われて嬉しいはずがないが、
でも、やっぱり山野には言われてみたい気がする。

恋とは、瞬時に人格や価値を変えてしまうほどの
パワーがあるようだ。


どうしても、山野に会いたい。
でも、どうすれば?


どうやれば山野が亜月と向き合ってくれるのか、
亜月はそればかり考えていた。






7へ

・・・亜月と、西川、坂下をどう絡ませるか・・・・すごく・・・すごくすごく悩みましたが、
このように落ち着きました・・・・。


亜月は、多少ビッチっぽい方がしっくりくる気がします


2013/1/23