ゆずれないモノ 8



時は、亜月が早退した日に遡る。




「おい、三条くん泣かしたのおまえだろ」

亜月が早退したあと、山野は数人の学生に取り囲まれた。


亜月には関わりたくなかったので、
彼のことは見ようともしなかった。

泣いていたことも知らないし、
それより、亜月が泣くのすら甚だ疑問だ。

さっき亜月から、散々な目に遭わされて、うんざりしていたのに、
また亜月の取り巻きからも罵声を受けるなんて。



心配する横尾から、山野も早退した方がいいと提案されたが、
こんな連中の為に自分が逃げるような真似はしたくないと思いそれは断った。



さらに悪質になってくる仕打ちにさらにうんざりとしてきた頃、
その亜月の取り巻き連中に呼び出された。


(・・・はぁ・・・今日はなんて、ついてない日なんだ・・・)

1日で2回も呼び出しなんて。

暇人どもめ、と内心ツッコミながらも彼らの後をついて行った。


案の定、亜月がらみでのことで。


数人に取り囲まれて、言われのない仕打ちを受ける。


亜月の為に、難儀なことで・・・。
そこまでしてあげる程の価値が、亜月にあるのだろうか?


何が彼らにここまでさせるのか、
それともこれも、亜月の指示なのか。

どちらにしても山野には理解できない。



むかつくんだよ、とか、キモイんだよとか、
オタクは死ね、とか、次々に罵声を受ける。


他人事のように、
亜月の親衛隊気どりの連中の罵声を聞き流していたら、
乾いた音とともに、頬に鋭い痛みが走った。



まったく怯えた様子を見せない山野に焦れたようで、
とうとう手が出てしまったようだ。


それと同時に、肩を思いきり突き飛ばされて視界がぐらつき、
それを機に、何度も腹や背中に痛みを覚えた。


すでに許容範囲は超えている。



バシンっ、と、数度目の頬を張る音が響いた時、口の中に鉄の味が広がった。


(・・・やれやれ・・・)

山野は大きく、溜め息をついた。

















「うわっ、山野くん、大丈夫?顔・・・腫れてる」


しばらくしてから教室へと戻ってきた山野を見て
横尾は驚いたように声を上げた。


「うん、僕は大丈夫だよ。それより、年末のイベントのことだけど・・・」


だが、横尾の視線は、話す山野を通り越して、
教室の外へと注がれた。



「うわっ・・・あの人たち、血だらけ・・・何があったんだろう?」

「・・・・・・さぁ?鼻血でも出したんじゃない?」




数人から抱えられながら、保健室へ向かう怪我を負った男を、
横尾が心配そうに見やる。


そのうちの一人が、山野と目が合うと、
ビクリと身体を震わせ、慌てて目を反らした。


その様子を見ていいた横尾の顔が引きつる。

「・・・あれって、三条くんの取り巻き・・・山野くん・・・もしかして・・・・君が・・・」


「ね、横尾くん、そんなことより冬休みの日程だけどさ・・・」



心配そうな横尾に、笑って見せ、
怪我人の集団に目を奪われている横尾の意識を自分に向けると、
山野は年末のイベントの予定について話始めた。


それがあるからまだいい。

楽しみがあるから、嫌なことにもなんとか耐えられる。

でも。


じんじんと熱を持つ頬を、冷たい手で冷やし、深い溜め息をついた。

(なんで僕は、こんな目に遭っているんだろうな・・・)

亜月に関わるとろくなことがない。


もう一度深く、溜め息をついた。


「大丈夫・・・?溜め息・・・・」

「いや。深呼吸だよ・・・」


苦笑いするしかなくて、山野は
はは・・・と、また笑ってみせた。






翌日、以外にも学校へ来ていた亜月が、
腫れた山野の顔を見るなり、驚いたように声を掛けてきたが、
痛みのせいもあり、口もききたくなくて山野は亜月を完全に避けた。

あまり人を無視するのは好きではない。
心苦しいけれど、山野は亜月を無視しつづけた。





冬休みに入る頃は、
頬の腫れはだいぶ治まり、遅れがちだったフィギュア作製も
遅れを取り戻した。

あと少しで完成。

TVには、今日のクリスマス・イブに、
どんなプレゼントが欲しいかといった街頭インタビューで
たくさんのカップルが映し出されている。



「ま、僕には縁のない話だね」

ふと、亜月の顔が浮かんでしまう自分に苦笑し、
TVを消して、最後の追い込みをかけようと作業を開始する。



これが済めば、皆が泊りに来た時に、
終わっていない人のお手伝いができるな、と胸算用する。


あともう少しだ。
途中になっていた、
大好きなキャラクターのボディへの着色を開始した。




特に、はだけて露出した胸には気合いが入り、
硬い素材でありながら、
いかに柔らかそうに見せるかが腕のみせどころだ。

エアーブラシを持つ手にも気合いが入る。


自分好みの理想の大きさ、形に成形された乳房を見ていたら、
再び、亜月との行為を思い出してしまった。


引き締まった身体に色素の薄い乳頭がぷっくりとして、
そこへ舌を這わせれば、感度の良かった亜月の身体は
びくびくと跳ねた。

快感を耐えるように詰めるような吐息が、耳の奥に残っている。

だけど。


(だけどやっぱり、女の子のふわふわおっぱいを揉んでみたいよなぁ・・・)

切実な願いである。

思わず手がもみもみと、
乳房を揉んでいるときの仕草をまねていることに気付き、
はっとなり頬を染め、あわててフィギュアづくりを再開した。





一度集中すると、時が経つのも忘れてしまう。


今作っているのは、水をかぶってしまった設定の女の子。
濡れて透けた感じを出すのに気合を入れる。

特に気合が入るのが、透けた乳首の部分だ。

念入りに色の調合をしていると、ふいにドアベルが鳴り、
誰だろうと思い、時計を見るとすっかり夜の12時が過ぎていた。


(横尾くんかな・・・・?こんな時間になんだろう?)




イベントも近いこの時期に、
ここに来るのは横尾だろうと思いこみ、
来るのは今日ではなかったはずだが、と思いつつも、
ドアスコープは覗かずにドアを開けた。


「うわっ」

ふいに誰かの驚く声が響いた。


声の主の正体に気づき、山野は大きく目を見開く。




「・・・え!?・・あれ・・・さ・・・・・三、条くん・・・!?」

そこには驚いた様子の亜月が立っていた。

「あ・・・えとっ・・・ドア、すぐに開けてくれるって思わなかったから・・・」

ドアを開けてくれたことに驚いているようだが、
まさか、横尾だと思い、間違って開けたとも言い難い。



仮にドアスコープを覗いて訪問客が亜月だと分かったとしても、
この寒い中、外に放置することも追い返すこともできないだろう。


関わりたくないと思っても、
ほっとくことができないのが、山野のいいところだ。




よく見ると、フードも肩も、うっすら濡れていて、
寒さにかたかたと震えているのが分かる。


外は雪が降っているようで、
傘もささずに、ここまで歩いてきたことを考えると、
少し可哀想にも思えた。


何か言いたげに、もじもじと立っている亜月をそのままにもできず、
とりあえず寒いので、中に入るように促すと、
亜月はハッと驚いたように顔を上げた。


遠慮勝ちに上がり、暖かい部屋に入ると、
ホッとしたのか亜月は安堵のため息をついた。


亜月がいつも好んで飲んでいた
ブルーマウンテンを挽こうかとも思ったが、
珈琲は、実は身体を冷やす飲み物だ。

寒い中、歩いてきたことを考えると、
なんとなく黒糖たっぷりの紅茶を淹れてあげることにした。



話しかけるなと自分から言ったものの、
家に来た以上そういう訳にもいかず、
いつも亜月が好んで使用していた柄のマグカップに
紅茶を注ぎながら、どうしたの?と声をかけた。




亜月は、目の前に置かれたカップに、両手を温めるように添えたまま、
気まずそうに無言で俯いている。


しばらく逡巡した後、やっと口を開いたが、
いつもの俺様のような威勢は微塵もない。


「・・・バッグ・・・なくしてさ。財布も携帯も、鍵とか全部・・・それで・・・」


「あー・・・」

そりゃあ、いつもの威勢もないはずだ。


家にも入れないので、暖をとれる場所といえば、
ここしか思いつかなかったのだろうと納得した。


もし、亜月がここに来ずに、仮に外で凍死しようものなら、
何でここに来なかったのかと、
亜月を避けてしまったことを、
おそらく一生後悔しただろう。


複雑ではあるが、
逆に、ここにきてくれたことに少しほっとした。


「僕さ、フィギュアとか、コスプレの小道具作んなきゃなんなくてさ、
あと少しなんだ。奥の部屋にいるね。なにかあったら声かけて」



勝手知ったる他人の家で、
亜月なら、別に自分がいなくても困らないだろうと思い、そう言い残すと、
山野はリビングに亜月を残して作業場に向かった。



何か言いたげではあったが、
それを気長に待っていられるほど気持ちに余裕はない。

元気のない様子からして、
今はあまりおしゃべりをする気分じゃないのだろうと察し、
用事があれば自分から何か言ってくるだろうと、作業に没頭することにした。






しばらくして作業部屋のドアがノックされ、
亜月らしからぬ様子で、遠慮がちにドアが開けらた。


「ああ、これね。ひどい臭いでしょ」


嗅ぎなれないパテの独特の匂いに
鼻をつまみ、あまりにひどい顔をしているので、
これはフィギュア作りの材料だと説明すると、
亜月は作りかけのボディを手にとった。

「・・・すげぇな・・・」

とても感心しているような表情には見えないので、
おそらく亜月の言っている「すごい」は、商品の出来というよりは、
誇張された胸のことを言っているのだろう。


そういえばと、亜月の女癖の悪さを思い出す。

いろんなおっぱいを揉み放題だったんだろうなと思うと、
ものすごく羨ましかった。







「やっぱり・・・女がいいよな・・・」

「うん、そうだね」

亜月のぼそっとした問いかけに、
おっぱい大好きな山野が、しみじみと答えると、
亜月はなぜか、今にも泣きそうな表情を見せた。





「三条くん・・・?」



どうにも今日の亜月は様子がおかしい。
調子が狂う。



前回の山野の取った態度は、これまでの身勝手な亜月なら、
逆ギレして怒鳴りこんできてもおかしくないだろうに。



だけど今の亜月はひどく悄然としていて、
時折、思いつめたように目を閉じ、唇をかみしめ、
そして小さく溜め息をつく。

そんな表情を繰り返している。




「・・・バッグ・・・見つかるといいね」

バッグをなくしたにしては、
どこか落ち込み方が違うような気がしたけれど、
気休めに声を掛けてみたが、亜月は返事はしなかった。




「三条くん、どこか具合悪い・・・・?ベッドで・・・横になるかい?」

黙りこんで俯く、亜月の表情を窺うことはできない。
何も言わない亜月に山野はだんだん、本気で心配になってきた。


雪に打たれて、風邪でも引いただろうか。


「ちょっとごめんね・・・」

そう告げて、熱を測ろうと額に手を当てれば、
びくんと亜月の身体が一瞬震え、その頬がたちまち紅く染められる。


「熱はないみたいだけど・・・」

引こうとした山野の手を、亜月にそっと掴まれ、
山野は驚いた。


まるで、離すまいとするかのように、
大事なものを抱えるように、両手でぎゅ・・・と握りしめていて、
まだその指先は冷たい。



「三条くん・・・・?」

「山野・・・・・」

その声はどこか切なげで、ゆっくりと顔をあげ、
形の整った綺麗な瞳が山野を見つめる。

思いつめた表情に、一瞬、なぜか山野の胸がドクンと跳ねた。






「・・・・・・なぁ、やっぱり、俺とするの・・・嫌?」

やっと絞り出すかのように亜月が告げた言葉に
山野は、またその事かとうんざりするように溜息をついた。



正直、自分が亜月を振ったことで、
亜月程の男に、ここまで言わせるなんて思ってもみなかった。


すること自体が嫌ではないが、
亜月と関わりたくないし、やっぱり山野だって、女の子としたい。

亜月も、なにがよくてこんな不細工な自分なんかに
しつこく迫ってくるのだろうと、
亜月の考えていることが理解できない。




「三条くん・・・やっぱり僕ね、セ、セフレとか
そういうの、向いてないんだよね。やっぱり小心者だからかな・・・」


掴まれた手を、そっと振りほどく。

気持ちいい時はそれしか考えられないけれど、
でもたまに冷静になったときに、
セックスフレンドという関係は、
どうしても悪いことをしているように思えるときがある。


それならいっそ、金を出して専門職の人にお願いした方がいいし、
なんならオナホの方がマシではないかと、
実は、本気で購入を考えたこともある。


そういう気持ちの状態で、
めんどくさい亜月と身体だけの関係を続けるのは、
勘弁してほしいというのが正直なところだ。




「山野・・・俺っ・・・・・・セフレは嫌だ・・・」


その亜月の言葉に、山野はいぶかしげに頭を傾げる。
今のはどういう意味だろうか。


それは、山野とはセックスをしたくないという意味だろうか?



恋愛経験も駆け引きもしたことのない山野にとって、
亜月の話す内容は、言葉が足りな過ぎていつも困る。



山野にとって、
「セフレは嫌だ」という言葉は
「セックスしたくない」という意味にしか受け取れない。


セフレをあっさりやめたことに怒ったり、
こうしてセフレは嫌だと言ってみたり。

じゃあ一体、亜月はどうしたいのか。



セフレは嫌だ、という言葉が暗に含む、
もう一つの意味に山野が気付くはずがない。



こういう亜月の言葉は、
どうしても山野には、亜月が身勝手なことを
気ままに言っているように感じてしまうのである。


何がしたいのか、
どうしたいのか、
亜月の言わんとしていることが分からずに、
山野の苛立ちはだんだん強くなる。


それを感じとったのか、
亜月は慌てて、とっさに肝心の言葉を山野に告げた。



「・・・すっ・・・好きなんだよっ」



その言葉に山野は動きを止め、
思わず怪訝な顔をする。


当の亜月も、うろたえながら、必死に言葉を紡いでいく。

「好きなんだ・・・・!俺・・・山野のこと・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・は?」


今、亜月は何と言ったのか。


山野のことが好き、と、そう聞こえた気がしたが。





「・・・・俺、山野のことが好きなんだ・・・そのことに、最近気付いて・・・・」

顔を真っ赤にして、渾身の愛の告白といったところだろうが、
なぜか山野は妙に冷静で、
亜月の精一杯の告白を悪い方へ分析する。



今までの亜月の言動から考えると、
本当に自分を好きだと言っているとはどうにも信じ難い。


怒鳴られて、亜月を振った自分への仕返しで、
何かを企んでいるようにしか思えない


その言葉を鵜呑みにして、彼氏気取りしようものなら
あいつ、本気にしてやがると、
大勢の前で侮辱するつもりなのかもしれない、といった、
最悪のシナリオを考えた。


憶測にすぎないが、ここまでくると
流石に山野も亜月に対して怒りに似た感情を覚える。



「・・・ね、君さ、僕をからかっているの?何がしたいわけ?」

つい、攻撃的な言い方をしてしまい、
亜月の目が驚いたように見開かれた。

からかってなんていないと、
酷く傷ついた目で、必死に山野に詰寄るが、
こんな演技をしてまで山野を陥れようとする亜月に、
山野は大きく溜め息をついた。




「君は、僕が君を追わなかったから・・・・
僕みたいなのに振られたから納得できないだけだよ」

「違うっ・・・!」


「よし分かったよ。
じゃあ、付き合おうか。そしてすぐに君の方から振ってくれ。それで満足だろう?」

「酷ぇ・・・!なんで・・・そんな言い方・・・!」


ショックを受け、悄然としたように立ち尽くす亜月に、
今日はやけに、迫真の演技をするものだと思った。




「酷いのはどっち?
今さら、君から好きだなんて言われて、どうして信じられるんだい。
いきなり告白なんかされたって、みんなして罠にはめようとしてるとしか思えないよ!」



「なんでっ、そんな・・・悪い方に考えるんだよっ」


「僕らをそんな風に・・・、
ポジティブな考え方ができないようにさせたのは、君たちだろ?
散々好き勝手言ってきたくせに・・・!」


その言葉に亜月ははっとしたように息を飲み、
まるで、自分の過ちに初めて気付いた罪人のように、目を見開いた。


自分が今まで、山野やその友人たちにしてきた仕打ちを
瞬時に思い出したようだ。


みるみるうちに、亜月の瞳に涙が溜まり、
そしてとうとう亜月の瞳から次々に涙が零れだした。




「えっ!?ちょっ・・・さ、三条くん・・・!?」

声を押し殺し泣くその光景に、山野はギョッとする。




少なくとも山野の知る限りでは、亜月とい男は
勝気で我儘で、自分が悪くても逆切れして怒り、
やられたら2倍にも3倍にもしてやり返す程の男だ。


こんなふうに、
言い負かされた状態で涙を流すなんて絶対にありえない。



最初、レイプしたときに見せた悔し涙以外で、
亜月のこんな切なげな泣き顔は見たことがなかった。


(どどっどど、どうしよう・・・泣かせちゃった・・・)



山野はオロオロし、申し訳ない気持ちで、
とりあえず溢れる涙を拭う為のハンカチを亜月に渡した。



涙を拭いながら啜り泣く亜月がどこか痛々しい。











「・・・・・山野・・・・・・・・ゴメン・・・・・・」
「!?」

しばらく泣いた後、亜月から発せられた言葉に
山野はさらにギョッとし、思わず固まってしまった。




え?


今、聞こえたのは、

まさか「ごめん」という言葉ではなかったか?


礼を言わない謝らないの、あの亜月が、
今、山野に、はっきり確実に「ゴメン」と言ったのか?



まさか、亜月の口から謝罪の言葉が出てくると思わなかった。




ああ、だから今日は雪が降った・・・じゃなくて!


今目の前にいるのは本当に亜月なのだろうか?
まるで知らない人を見るように、亜月に視線を注ぐ。




「フィギュアの事も・・・バカにして・・・ほんとにゴメン。
俺さ、何よりもまず先に、これを言わなきゃいけなかったんだよね・・・
こんなだから・・・山野は俺のこと・・・嫌いなんだよな・・・」


言葉に詰まり、
さらにぽろぽろ溢れる涙に山野は、さらにさらにぎょぎょっとする。


「いやっ、別に嫌いでは・・・ないよっ」


あわてて取り繕うが、亜月の涙は止まるどころか
どんどん溢れて、山野は酷く動揺する。





「ね・・・山野ぉ・・・俺のこと、どれくらい・・・嫌い?」

「や・・や、だ、だからっ、
別に、嫌いじゃないって・・・どれくらいって聞かれても・・・」



そう聞かれても、この聞き方はすごく答えに迷う。

卑怯な聞き方だと思う。


好きな人にだって嫌いな部分はあるので、
「どこ」が嫌いかは答えやすいが、
「どれくらい」嫌いか、というのは答えにくい。



亜月には、嫌いな部分はたくさんある。
上げていけばキリがない。


だから苦手意識があって、関わりたくないというだけのことだ。


でも、亜月自身を「どのくらい嫌い」かと聞かれると、
・・・別に嫌いではない、としか答えようがない。





かといって、好きか?と聞かれれば、
答えはたぶんNOだ。

だんだんわけが分からなくなって、山野はう〜〜んと唸る。







「じ、じゃあ君はさ、逆に、僕のどこが好き?どれくらい好きなのさ」

「・・・え?・・・え・・・と・・・どこって・・・」

考えをめぐらせているようだが、結局亜月も答えられない。




「だろ?漠然とした質問なんだよね、どのくらい好きとか嫌いとかさ。
嫌いじゃないけど、ごめん・・・君と恋人とか僕は勘弁してほしい」



亜月は顔をくしゃりと歪め、
悲痛な表情が、山野にさくっと突き刺さる。




「それって・・・俺が今まで、山野を馬鹿にしてたから?」


山野はどう答えていいのか分からず、複雑な表情を浮かべ、
曖昧に微笑むことしかできなかった。



再び俯き、亜月は山野の服の袖をきゅ・・・と掴む。

「山野・・・・ごめんっ・・・」


山野は思わず、その仕草にドキッとする。





そしてどんどん、本泣きになっていく亜月に
山野はオロオロするばかりだ。

泣いている相手に、どういうふうに声をかけていいのか分からない。


亜月は掴んだ袖口に、さらにぎゅ・・・と力を込める。

不覚にも、その仕草に胸がキュンとした。

(わわっ!ど、どうしよう・・・やばい・・・!かっ、かわっ・・・可愛い!)


ごめんなさい、ごめんなさいと呟きながら、
目を涙に濡らす姿は、いつもの亜月からは想像がつかず、
山野も面喰ってしまう。




「ねぇ・・・どうしたら、俺を許してくれる・・・・?」


さらに、紅く染まった目元、
そして涙声で問われると、さらに堪らない気持ちになってくる。





「許すもなにも・・・・・・なんで僕なの?
あんなに僕たちを、馬鹿にしていたじゃない・・・」


「わかんねぇよ!・・・だって・・・お前がいいんだもん・・・」

もんって何!?
今、もんって言った・・・!?



可愛さに思わず悶えそうになる。


なんで、こんな自分と背も変わらない大柄な男相手に、
しかもさっきまで苦手だと思っていた相手に
盛大に胸キュンしなければならないのかと、自分に問い正すが、

心の変化なんて、自分でコントロールできるものではない。



そのことを初めて知った。





思わず絆(ほだ)されそうになった山野に、
亜月はすかさずに抱きついてきた。


驚いて、慌てて亜月を引きはがそうとするが、
亜月はさらに、力強く山野に抱きついてくる。



「いやだ、離すな!ぎゅうってしろよ!」


いつもの亜月っぽい命令口調で叫び、胸に顔を押し当ててくるが、
だんだん、山野の胸元が涙で濡れてきた。

震えていて、そしてまだ、泣いている。




「好きっ・・・俺、山野が好きだ・・・」



とても必死に、それだけを繰り返す。


亜月もまた、「まともな恋愛」なんてしたことがなくて、
気の利いた言葉が思いつかないようだ。


女を悦ばせる為の、
その場限りの甘言は、つらつらと出てくるだろうに。



本気の恋は、言葉への装飾を妨害するようだ。




「ねぇ・・・フィギュアの・・・
ゲームとかの次でもいいから・・・俺を好きになってよ・・・」

山野、お願い・・・と、消え入りそうな声で呟く様に
山野の胸がキュンと疼く。


山野から離れず、べったりと張り付く亜月の身体に手をまわしてみた。


思えば、こんなふうに「抱擁」するのは初めてで、
知っている身体のはずなのに、やたら細く感じる。



震える背中がなんだか寂しげで、
抱きしめる腕に力を込めれば、亜月もまた、
ぎゅ・・・と力を込めてきた。


(うわっ・・・なんだこの可愛い生き物わっ・・・)



片方の手で、髪を撫でれば、
ふわりとした感触が手に心地よい。


上から目線だった男が、
こうも無心に山野に縋ってくるギャップに、ドギマギする。




もしかしたら元来、亜月という人間は
とても素直な、いい子なのかもしれない。


人の痛みを誰も教えなかったから、
こうなっただけなのかもしれない。



「お願い・・・山野っ・・・好きっ・・・」



「ふぅ・・・」

山野は溜め息をついた。

でも、さっきまでの、うんざりしたような溜息ではなかった。

まるで、駄々っ子をみるように、
山野の口元には、自然と笑みが浮かんでいる。




「なぁ、嫌いにならないでくれ・・・俺が・・・悪かったから・・・」


ぐすぐすっと泣く亜月の髪を優しく撫で続け、
ならないよ、と、やさしく囁た。




「わかったから、もう泣かないで・・・ね?」


まるで、小さな子供に言い聞かせるように優しく諭す。


泣きながら好きだと繰り返す亜月に、
山野もまた、分かったから、と繰り返し告げて、指で涙を拭ってやる。


「恋人がいい・・・俺、セフレは嫌なんだ・・・」

亜月は少しだけ身体を離すと、しっかりと山野を見据えてはっきりと告げ、
そしてまた、好き、と呟いて山野の首に縋りついた。


ああ、そういうことなのかと、山野はやっと悟った。
セフレは嫌だとういう意味を。


抱きしめた亜月から、ふわっ・・・と甘い香りが漂った気がして、
白い首筋の辺りの香りを一気に吸い込めば、
今までにない程に胸が高鳴り、
山野の牡としての本能が掻き立てられるようだった。



何度もその香りを吸い込み、
その際に山野の髪が首筋に触れるのか、亜月は艶めかしい吐息を漏らす。


山野は、背に回していた腕を解き、両手で亜月の頬を包み込んだ。

視線を合わせれば
思わず見惚れてしまうほど、亜月が壮絶に綺麗だ。



「俺・・・山野の恋人になりたい・・・付き合って、ください・・・」




欲情の籠った声で囁かれ、
そして涙に濡れた瞳には愛念の情が灯っている。

その表情に、嘘は見えなかった。




今までの、亜月に対する煩わしさが、一気に払拭され、
それらが一気に愛おしさにすり替わった瞬間、

いざなわれるように、
山野は亜月に、そっと口付けを落とした。




9へ

うわぁ・・・今回も上手く心情を表現できてません・・・。

頑張ります。そしてこっ恥ずかしい・・・(/o\)なんか恥ずかしい(/o\)

実は私自身、あまり恋愛経験というのが無いのですよ(^^ゞ

こういう場合表現がすごく悩むよう・・・・・。


2013/02/08