ビューイの話


目を覚まし、腕を伸ばして 彼を求めて手で探るけど、
いつもの如く、彼が寝ていたはずのシーツはすでに冷たくなっていて、
彼の香りだけが残っている。






「アレイ・・・」



 


どれだけ、例えようのない程の深い快楽を与えられても、
どれだけ身体が溶けそうなほど激しく抱かれても、
目を覚ました時にアレイの姿があったことはなくて。



僕の小さなため息が、広い寝室に寂しく吸い込まれていく。






手触りの良いシーツに残された、愛しい人の名残に顔をうずめ、
その香りを胸に吸い込めば、身体の奥にほわりとした熱が広がっていくようで。









(あれって、いつだったっけ・・・)



初めてアレイに抱かれたのは・・・。





6年前、不慮の事故で、この国の王と王妃・・・最愛の両親がこの世を去った。






 





いつまでたっても泣いてばかりいるリーンをみていると、
なんだか、僕はもう泣いてはいけない気がして。
ほんとは、いっぱい・・・もっともっと泣きたいけど。






でも、僕は兄王だから。


 


僕の可愛いリーン。
リーンの涙は、どうやったら止まるのだろう。




僕は、いつもそればかり考えていた。











「そっと抱き締めてごらんなさい」



そう教えてくれたのは、アレイ。



「・・・・抱きしめる・・・・?」



「ええ。抱きしめて差し上げれば、リーン様もきっと、安心して、落ち着いてきます。」
「・・・・・安心・・・する?ホントに・・・・?」



「ええ・・・このように・・・」



そう言ってアレイは僕を抱きしめてきた。



「・・・!!あっ・・アレイ・・・・!」
「ビューイ様、しばらくの無礼を許してくださいね」


 
僕の体はすっぽりとアレイの胸に収まってしまって・・・・。







ああ・・・すごく温かい・・・。
そして・・・本当なんだね・・・。なんて安心するんだろう・・・。



僕は・・・リーンにとっていい兄王であるために我慢してきたのに・・・。





じわりと目が熱くなる。




「いいんですよ・・・ビューイ様。ここには私しかおりませんよ。
兄上様にもリーン様にも、内緒にしてさしあげます・・・。どうぞ・・・たくさんお泣きなさい。」


 
「ふ・・・ア・・・レイ・・・・」



僕の目からは、次から次に涙がこぼれてしまう。



「・・・っうう・・・ひっく・・・」
「・・・ビューイ様・・・」



チュッと音がして、柔らかいものが僕の涙を吸い取っていく。



それは顔中に散らされて。



そして・・・・。



ふいに唇へと触れてきた。










 


どうしてかな・・・。



不安がどんどん薄れていく。


でも唇が離れると、また不安になって・・・。



「アレイ・・・」


名を呼べば、再びアレイは口づけてくれた。




「ん・・っ・・・・」


キスされればされるほど、どんどん不安が消えていって、
でも、涙はどんどんあふれてきて・・・。





「ビューイ様・・・・」





呼ばれたと同時に、いつの間に脱がされたのか、身体全体にキスが降ってくる。


 



「あっ・・・・」





肌と肌が直接合わさる。 


そして・・・不安をかき消すように、キスの嵐は止まない。





抱きしめられて、キスされて。





さっきまでの不安と悲しみが嘘のように、ふわっとした気持ちが胸を占める。



ああ、そうか・・・。




安心・・・する。





アレイが抱いてくれるから・・・不安がかき消される。









「アレイ・・・もっと・・・」




もっとして。


悲しかったことを、完全に忘れてしまうくらい。





もっと・・・・。


もっと安心させて。



甘えさせて・・・アレイ・・・おまえだけに・・・僕を。



そして僕は、完全にアレイに身をゆだねた。















「あっ・・・・あっ・・・」


色々な場所を愛されて、たくさん抱きしめられて。

たくさん肌が触れ合って・・・・。




そして今、僕の中にはアレイがいる。



「ビューイ様・・・・」

「あっ!あっ・・・・!」



アレイが入ってきたときは、圧迫感と痛みがあったけど、


でも、それ以上に、僕はホッとした・・・。


 


アレイの熱は、僕を安心させてくれる。


中から突き上げる熱も、外から包み込むように抱きしめる熱も。






アレイはゆっくりと動いてくれる。


ゆっくり、ゆっくり、僕を労わるように、心配ないと言い聞かせるように、とても優しく愛してくれる。



「ビューイ様・・・」



ぬちゃぬちゃという水音の合間に、アレイが僕の名を呼んでくれる。



その音が、自分の耳に届くたびに、出入りするアレイを意識する。





アレイの出す体液と、僕の出す体液が僕の中で混ざって、


それをアレイが掻きまわして出る音。








二人共同で出す音に煽られる。





緩慢な動きが、だんだんじれったくなってきて。






「アレイ・・・もっと・・・」


「さっきから、そればっかりですね。ビューイ様・・・」



だって・・・僕は今・・・なんだか変な感じで・・・。




だって・・・もっと、って気分なんだもの。






もっと・・・もっと・・・



「激しくして・・・!」



僕のその言葉を合図に、アレイは激しく腰を打ちつけてきた。


「あっ!ああっ!あっ!」


「・・・っ・・・ビューイ・・・・!」


「んあっ・・・アレイ・・・!」







結合部の音に加えて、ベッドの軋む音が響く。


「ああん・・・やっ・・アレイ・・・アレイ・・・!」





激しく突き上げられて、掻きまわされて、奥まで愛されて・・・。



今まで感じたことのない快感が身体を突き抜けていく。





「ああっ・・・ああっ・・・いっ・・・ん!」



激しい打ち付けにさらに動きに速さが加わり、僕をどんどん追い上げていく。



もう、声を抑えるなんでとてもじゃないけど無理で・・・。





「ひっ・・・・ああああっ!!」

「・・・っ!」






じわりと中に広がっていく熱が、僕をいままでにないくらい安心させてくれる。





僕の中にとどまったまま、アレイは僕をギュッと抱きしめて、そしてキスをしてくれた。





今度は・・・・むさぼるように。



















アレイの言うとおり、僕はなんだか救われた気がして。
抱かれることで、こんなにも救われるのだと知った。


 


彼はまだ、僕を抱きしめていてくれる。


 


たくましく、筋肉のついた胸が上下する。





息遣いが、心音が。


温かさが。








また、僕は涙を流した。




抱きしめてくれる人がいるということは、


こんなに幸せをもたらすものなのか。




大切な両親を失ったけど、僕を想ってくれる人がいる。


 





僕は、アレイがいれば、どんなことも乗り越えていけると、強く強く思った。









「申し訳・・・・ございませんでした・・・ビューイ様!私は・・・取り返しのつかないことを・・・!」
「ねえ、アレイ・・・。もう一回、僕をビューイって呼んで・・・?」

膝を折って頭を下げるアレイに、僕はそう答えた。



「・・・は?あの・・・ビューイ様・・・・?」





答えになっていないようで、きちんと答えになっているんだよ。


だって、そうでしょ?





「様をつけないで呼んでみて?」
「あの・・・いえ・・・それは・・・・」




「・・・できないの?」
「・・・ビューイ様・・・ただでさえ、私のしたことは、死罪に値する行為・・・」



「じゃあ、僕を抱くときは・・・抱くときだけでいいから・・・!僕のこと・・・様をつけないで呼んで・・・!」
「・・・ビューイ様・・・・」



とても困った顔・・・・こんな顔もするんだね。初めて見たよ。


 


「これからはずっと・・・・僕を抱くときは・・・・・そう呼んで・・・。僕、すごく嬉しかったの・・・。」




これほどわかりやすい赦しの言葉はないよね?

そもそも、僕は、ありがとうって言いたいくらいだなんだよ?





しばらく茫然としていたアレイだけど・・・。




「わかりました・・・・。その代わり・・・お願いがございます。」

「なぁに?」





「ビューイ・・・・・」



ドキリと胸が鳴った。





そして、アレイの手が・・・再び僕の中への入り口に触れる・・・。

「ん・・・・」



アレイが放ったものがまだ入ったままのそこは、簡単に指の侵入を果たす。




「ビューイ、ここは私だけのものです。誰にも・・・・誰にも触れさせないでください・・・ここだけは」

「ん・・・んっ・・・アレイっ・・・」




ちゅぷっ、ちゅぷっ、と何度も何度も、指がそこをこすりあげる。

そうすれば、アレイの放ったものが、脚を伝って下りていく。



「あっ・・・ん・・・・」





「ビューイ・・・あなたは、私だけのものです。」



少し乱暴にベッドに押し倒されて・・・・。







「ひっ・・・ああああん!」


再び、アレイは僕を・・・。











「ああっ・・・あーっ!あっ!あっあっ!」


嘘っ・・・さっきよりもずっと・・・・!




「ビューイ・・・!ビューイ・・・!誓わせますよ・・・これからもずっと・・・!」

「ふあっ・・・ん!ひうぅっ・・!ああん・・・っ」



気持ちいい・・・!


「誓いなさい・・・ビューイ・・・!」
「誓う・・・誓うよう・・・・ああっ!」





まるで身分が貶められたような錯覚が、スパイスとなってさらに感じてしまう。



ううん・・・実際に貶められて、感じてる。
貶めていいのは・・・アレイだけ。





「ち・・・誓い・・・・ますっ・・・あっあっあっ!んああああ!」



まるで漂うような浮遊感に襲われる。






二度の絶頂は、僕とアレイの関係を決定的なものした。


















あれから、毎日毎日、アレイは僕を抱き、今に至る。



王族の僕と、一介の兵士の彼が、同じ朝を迎えることができないのが、とても寂しいけど。



でも僕は、いつかは、彼と同じシーツに包まって、同じ朝日を見たいと思ってる。
そう告げれば、きっと彼は、また困った顔をするんだろけどね・・・。




 リーンの話
今回はビューイ目線で。両親が亡くなっているのに、ナニやってんの!?というツッコミはなしです。
辛さ悲しみを、抱いて慰めるのはBLのオプションってことで。

ちなみに、ビューイは兄弟の中で一番、王族らしくない話し方をします。